君に会いに行こう。









真実に気づいてもらうために。









真実に気づいてくれるように。









真実に近づくことができるように。









君は自分の願いに気づいてくれますか――――――――?















水鏡に響く鎮魂歌―弐拾―
















「久しぶりだね昌浩。傷の具合どう?」


空が茜色に染まる黄昏時。

帰路についていた昌浩達の前に一つの影が立ち塞がった。
その影の持ち主を昌浩達はよく知っている。といっても、その頭には”最近”がつく。
昌浩と全く同じな背格好、容姿。髪型のみが異なっている少年――――寛匡だ。

物の怪は、目の前に佇む人物が寛匡だとわかると、その夕焼け色の瞳を怒りに煌かせる。
それと同時に、額の花の様な模様もうっすらと光を放ち始める。
前に出て昌浩を庇いつつ、殺気にも似た怒気を含んだ鋭い視線を相手へと向ける。

それまですぐ傍で隠形していた六合も、顕現して臨戦態勢になる。


「貴様っ・・・・・!」

「そんな怖い視線を向けないでよ神将。今日は何もしないから・・・・・・」


全く、気が短いなぁ・・・・・・・。

睨みつけてくる物の怪に、寛匡は軽く肩を竦めてそう言った。


「敵の言など信用できるかっ!!」

「え〜。俺は嘘は言わないよ?その証拠に、今まで答えられる質問にはちゃんと答えてたでしょ?」

「だが、すべてではないだろう?」

「うん。だから”答えられる”って言ったでしょ?」


答えられる質問には素直に答えたと、寛匡は言う。
ならばと、物の怪が問う。


「この度のお前の用件はなんだ?話せ」

「それ、人に物を聞くような態度じゃないよ?」

「黙れ。答えられるか、答えられないか・・・・・どちらだ?」


話の腰を折るようなまねをする寛匡の言葉を切って捨て、高圧的ともいえる態度で物の怪は問いただす。
そんな物の怪に、寛匡は仕方ないなといった風情で質問に答える。


「もちろん答えられるよ。というか、それを言わないと今俺がここにいる意味ないんだけど・・・・・・・?」

「なら話せ」

「全くもう、せっかちなんだから神将は・・・・・・昌浩もそう思うよねぇ?」

「えっ!?・・・・あぁ、うん。そうだね・・・・・・・」

「昌浩?!お前、あいつの味方をするのかっ!!?」

「そういうわけとも違うんだけど・・・・・・・・・」


今現在の物の怪を見た分には、そうとしかいえないと思うのだが。

最後の方は声に出さないで、心の中でのみ呟く。
そんな昌浩の心中にお構いなく、寛匡は話を続ける。


「まぁ、そんなことはさておき。一応警告に来た」

「警告?」


寛匡の言葉に、昌浩は怪訝そうな顔をする。
それは共にその言葉を聞いていた、物の怪や六合もそうだといえる。


「そ。あと数日もしたら爛覇は動き出す。最初で最後の・・・・・・ね。だから準備をするなり、体調を整えるなりできるのはその間になる」

「それは本当か?」

「さっきも言ったでしょ?俺は全部は話さないけど、嘘は吐かないって」

「・・・・・・・・・」


掌でひじを押さえるような格好で腕を組み、きっぱりと寛匡はそう言った。

そんな寛匡をしばしの間眺めていた物の怪は徐に口を開いた。


「ところで、話は変わるが・・・・・・貴様、腹の怪我はどうした?」


夕焼け色の瞳を剣呑に煌かせて、怪我があるであろう場所を注視する。
寛匡はそれに「あ?わかった?」などと言って組んだ腕を解き、傷口をぽんぽんと叩いた。


「ばっちり治ってるよv」

「馬鹿なっ!貴様よりも怪我の軽い昌浩がまだ治ってないんだぞ?!なぜお前の方が早く治る!!!」


にっ!と口の端を引き上げて笑う寛匡に、物の怪は反論する。
治癒速度の早さは人それぞれとはいえ、これほど早く怪我が治ることはおかしい。

そう、人としては・・・・・・・・・・・・。


「・・・・人では、ない?」

「・・・・え?どういうこと?もっくん」


物の怪の零した呟きを聞き取った昌浩は、その意味がわからず問い返す。
物の怪の言葉を聞いた六合も、何かに思い至ったのか、微かに眉を寄せた。


「この短期間であれほどの怪我が治ったなどど、人の身では決してありえない。ならば結論は一つ。あいつは人間じゃないということになる」

「・・・・・・・・・」

「それに今まで気づかなかったが、やつから感じられる人の気配はかなり薄い・・・・・・」


寛匡の気を探っているのか、六合は眼を眇めつつそう言った。
それを聞いた昌浩は、信じられないといった風に寛匡へ視線を向ける。
その視線を受けた寛匡は、何とでもないような顔で一つ頷いた。―――が、すぐ後にやや首を傾げる。


「う〜ん、半分当たってるけど半分外れってとこかな?」

「・・・・・どういう意味だ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、このことについては特に何も言われてないから俺の判断で話すけど・・・・・・・・・・・」


どう説明したらいいのかな・・・・・・?

寛匡は唸りながら言葉を捜すように視線を泳がせる。
それを物の怪は苛立った様子で見ている。

昌浩と六合はただ静かに言葉を待つ。

折角本人が自分から話すと言っているのだ、言葉がきちんと纏まるまで待っていた方が良いだろう。


「そうだね・・・・・簡単に言えば魂は本物だけど、器<身体>が紛い物ってとこかな?」

「紛い物・・・・・・?」

「そういうこと。これは人の身じゃなくて作られた器なの。わかった?」


昌浩に視線を合わせ、寛匡は確認するよう首を傾げる。
昌浩はそれにぎこちなくだが頷く。


「つまり、怪我の治りが早いのは作られた体だからってこと?」

「うん、そう!・・・・・これでわかったかな?神将」

「・・・・完結に言えば、お前は人間ではないんだな?」

「半分は、ね。魂は本物だから俺を殺したりしたら人殺しになっちゃうよ?」

「なんだと?」

「だーかーらー!器である人の身はないけど、魂はまだ生きてるんだよ。だから人殺しになるって言ってるの!!」


つまり、生霊ってこと!

それを聞いた物の怪は軽く舌打ちをする。
もし、寛匡が言っていることが本当であれば、自分達神将は手を出すわけにはいかない。


「生きてるの?体がないのに??」

「あ〜。分かり易く言えば、生霊が人に憑依するか、別の何かに憑依するかの違いってとこかな?」

「つまり本体は別にあるってこと?」

「そういうこと!」


首を傾げながらそう言えば、肯定の言葉が返ってくる。
なるほどと、昌浩も納得したように頷く。
しかし、その後にはたと気づいたように訝しげな顔をする。


「なぁ、なんでそんなことをわざわざ教えてくれたんだ?」


さっきの警告にしろ、今のこれにしろ。

昌浩の疑問に、寛匡は困ったような顔をする。


「う〜ん、細かいことは言えないけど・・・・・・一言で言うなら”俺の願いのため”かな?」

「・・・?それとこれにどういう関係があるの?」

「いずれわかるよ・・・・・・いずれね」


昌浩の問い掛けに、寛匡は意味深に答える。
しかし、次の瞬間にはくるりと踵を返す。


「待てっ!何処に行く!!」

「どこって・・・・・帰るんだよ。もう用は済ませた」


呼び止める物の怪に、寛匡は簡素に答える。


「・・・・・一ついいか?」


それまで口を閉ざしていた六合が口を開く。


「・・・・・何?」

「お前の願いとは何だ?」


六合の視線が真っ直ぐと寛匡の瞳を射抜く。
寛匡はそれに眼を眇める。

そのままの状態で逡巡したのち、ふっと口元を綻ばせて――――


「”真実”を見つけてもらう事」


そう一言だけ答えた。


次の言葉を続ける暇を与えずに、寛匡はその場から姿を消した。







「真実・・・・・・・だと?」

「一体どういう意味なんだろう?」

「・・・・・・・・」


寛匡がつい今しがたまでいた場所を眺めつつ、三人(二人と一匹)は燻る不安を消せずにいたのだった―――――。
















どうか気づいて下さい。









本当の真実に・・・・・・・・―――――――。















                         

※言い訳
とうとう20話に突入してしまいました!!自分でもここまで長くなるとは思ってもいなかった;;いやぁ、びっくり!
今回、かなり大まかな設定をこの話でばらしました。
といっても、今までのお話の中にもそれとなく書いていたので、今更かよ・・・・という人も多いのでは?
まぁ、それはそれでまとめ的な説明文だと思ってもらえれば、それでいいです。
次はじい様との会話を書いて、後は爛覇との対決に入っていくと思いますので・・・・・・・・・。

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2006/3/13