眼を瞑れば浮かぶのは愛しい者の顔。









こみ上げてくるは愛しさと懐かしさと哀愁。









花開く紅。









凍える指先。









大切な者はこの手から零れ落ちていく―――――――。















水鏡に響く鎮魂歌―弐拾肆―
















一方、東に向かった晴明達は東の外れの荒地にやって来ていた。


「どうやらこの辺りから気配がするのぅ・・・・・・」

「だが、人影らしきものは見当たらないぞ?晴明」


周囲の様子を窺っていた晴明に、白虎は問い掛ける。

白虎の言うとおり、見渡せる範囲では人影らしきものはどこにも見当たらない。
鬱蒼と生い茂る背丈の高い雑草ばかりの、実に閑散とした風景だ。


「この辺りと言ったじゃろうに。気配はここから少し離れた所に居る」

「・・・・・・あぁ、確かにな」


晴明に言われて付近の様子を探った白虎は、この先を少し行った所に強く主張する気配があるのを捉え、納得したように頷いた。


「晴明様、あまりご無理をなさらないで下さい」

「天貴の言うとおりだぞ晴明。お前は脚力手を出すなよ?」

「貴様が動くのは一番最後だ」


今まで隠形していた天一が、晴明の背後に顕現して心配そうに声を掛ける。
それに続いて顕現した朱雀がそれに同調して言葉を続ける。
同様に顕現した青龍は、尊大な態度で吐き捨てるようにそう言った。

そんな彼らに晴明は僅かに頬を緩める。


「しかしのぅ、相手は仮にも人間。お主等は理があるから、わししか相手が出来る者はおらんぞ?」

「言われずともそんなことは知っている」

「だな。ようは傷つけなければいいんだし、牽制位ならいくらでもできるぞ」

「闘えずともその身をお守りすることはできます」

「俺達とて、何もせずに手を拱いているつもりは毛頭にないからな」


呆れたように話す晴明に、彼らは各々の言葉を口にする。
ちなみに話した順を言えば、青龍、朱雀、天一、白虎である。


「・・・・では、行こうかの」


そんな彼らを頼もしげに見つつ、晴明は気配に向かって歩き出した。
十二神将達はその後に続く。



彼らの向かう先は復讐者――――――――。
















       思い出せ哀しき過去を

       思い出せ苦しき過去を

       御魂に刻まれしその記憶

       嘆きの声は虚空に響き渡れども

       嘆きに耳を傾ける者は無し

       さすれば願わん

       我が声を聞きし者が在ることを

       我が魂とその叫びに気づきし者を

       この魂尽き果てるまで謡おう

       嘆きの唄を・・・・・・・・・・・・




気配の元に向かって歩んでいた晴明達の耳に、歌声が聞こえてきた。

耳に届いた唄、言霊一つ一つに込められた感情は憎悪。
それ以外にも様々な負の感情が入り交ざっている。

そう、それは呪いにも似た禍唄。


晴明達はその歌声に向かって歩を進める。
すると前方に人影が見えてきた。

そう認識したと同時にふつりと歌声が途切れた。


「・・・・・・・・来たか、安倍晴明」


そう言って人影―――爛覇はうっそりと暗い笑みを浮かべた。

それに対して、晴明は僅かに眉を寄せる程度の反応を返す。


「お主が今回の騒動の首謀者か?」

「・・・だったら何だ?」

「目的は一体何だ」


厳しい眼を向けてくる晴明に、爛覇は微かに眼を細める。


「目的、目的なぁ・・・・・貴様の孫から話は聞いているだろう?ならば言わずともわかると思うが?」

「・・・・・・・復讐か」

「そうだ・・・・・・・」


十三日前、眼を覚ました昌浩から話を聞いていた晴明は、一番可能性がある言葉を呟いた。
そして、爛覇は言葉短く肯定した。


「貴様は覚えていないだろうがなぁ・・・・・・・・・・十二年前、俺の弟が、呪詛によって死んだ」

「十二年前・・・・・・・・・・」

「当時、貴族の中に弟を邪魔に思っていた者がいたらしい・・・・・・そいつがある陰陽師に呪詛をするよう依頼した」

「・・・・・・・・・・・」


爛覇からゆらりと陽炎のような霊気が立ち上る。
晴明はそれを見て、僅かながら怪訝そうに眼を眇めた。

(これは・・・・・・・)


「弟を失って俺は誰が呪詛を行ったのか懸命に調べた・・・・・・・・・・そしてわかった名が”安倍晴明”」

「・・・・・・・・・・」


名を告げた時、晴明が何か物言いたげな視線を寄越したが、爛覇は気にせずに話を続ける。


「そして私は晴明、お前とその近しい者達に復讐することを誓った・・・・・」

「なぜわしだけではなく、近しい者にも?」

「決まっている・・・・私が味わった悲しみを、貴様にも味合わせてやりたいと思ったからだ」


晴明に復讐という言葉を聞いて、晴明の後ろに控えていた神将達の空気が刺々しいものになっていく。
心情としては「何を戯言を・・・・・」だが、可能とか不可能という問題以前にそれを口に出したことが気に食わない。

険悪な視線を寄越してくる神将達を見て、爛覇は表情を消し去る。


「弟が死んでしまった大本の原因が貴様ではないことは知っている・・・・・・が、いくら依頼されたとはいえ呪詛を行ったのは貴様だ。許せなかった・・・・・・・・・・」

「お主・・・・・・・」

「だから今日、貴様に復讐してやる!!」


無表情か転じて憎悪に満ちた顔になる。

ザワアァァッ!

爛覇の霊力が膨れ上がり、一気に爆発した。

辺り一体に瘴気が立ち込め、欄覇によって呼び起こされた亡霊たちが宙を飛び交う。
そして、晴明達に一斉に襲い掛かった!


オオォォォォッ!


霊たちが晴明目掛けて一直線に突き進む。
が、次の瞬間。


「邪魔だっ!」


青龍の甚だ不機嫌な怒声と共に、銀の斬閃が奔る。
それによって、晴明に襲いかかろうとしていた霊たちが一撃で消え去った。

それを皮切りに、次々と霊たちが襲い掛かってくる。


「はっ!雑魚が!!!晴明と天貴には指一本も触れさせねぇっ!!!!!!」


太刀を取り出し、襲い掛かってくる霊たちを次々となぎ払いながら、朱雀はそう叫ぶ。
白虎も風の刃を繰り出して霊たちを切り刻んでいく。


「万魔拱服―――!!」


凄絶な霊気が辺り一帯に広がる。

無論、晴明も護られているばかりではなく、霊たちを調伏していく。しかし―――


「貴様はいらぬ手を下さなくていいっ!!!」

「宵藍・・・・・・・」


容赦ない青龍の激昂が飛ぶ。
それに晴明はやれやれと溜息を吐くしかなかった。


晴明達を見ていた爛覇は、口元に暗い笑みを浮かべた。





安倍晴明よ


貴様を縛る鎖はとうに出来ている


失くしたくなくば抗わぬことだ


そう、己の大切なものを――――――――





男の胸中にこみ上げてくる感情は、狂気じみた愉悦。


瞳が煌々と輝く。








縛る鎖を引き千切った瞬間。








貴様の顔を見るのが楽しみよの・・・・・・・・・・・。






















そうだ、それでいい。











謳うのだ禍唄を。











舞うのだ愚かしい戯曲を。












男を見つめる闇が嗤う――――――――。



















                         

※言い訳
短っ!なんか文章が短いよ;;
晴明と爛覇の会話。とても書き辛かった・・・・・・。
書いた本人はこの話が気に食わなかったり・・・・・・・・思うように文章が書けませんでした。
要修行ですかね・・・・・・・・。

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2006/3/20