都の宙を縦横無尽に飛び回る霊。 空を埋め尽くさんばかりの数。 足りない人手。 追い着かない調伏。 それでも、都を護ってくれと頼まれたのだ―――――――――。 水鏡に響く鎮魂歌―弐拾伍― 晴明と昌浩がそれぞれ東西の外れで敵と対峙していた頃。 吉昌や成親・昌親などの安倍家の者達を初めとする、陰陽寮の者達も都を護るために奮闘していた。 「しかし、すごい数だなぁ・・・・・・・」 「兄上、感心している場合ではありませんよ?いくら小物とはいえ、こんなに大量にいたのなら徒人にも影響が出てしまいます」 「そうだな、塵も積もれば山となる。微弱な妖気も寄り集まればそれなりのものになるってか?」 「そうですね。正にこの光景はそれですね」 飄々とした様子で軽口を叩く成親に、昌親はやや呆れつつも賛同する。 こんな非常事態でも普段どおりである二人は、流石安倍家と言えよう。 妖が十や二十いようが関係ない。 そんな軟な神経は生憎と持ち合わせていないのだ。特に晴明率いる安倍家には。 晴明が張った結界が破られたことを知り、慌てて街中へと出てみればおびただしい数の霊の群れ。 それを見た瞬間には、流石に口の端が引き攣りそうになったものだ。 こんなの、安倍家だけが頑張って払ったところで払いきれる数ではない。 陰陽寮総出でも払いきれるかどうか・・・・・・・怪しいところである。 なんせどこを見渡しても霊霊霊。 霊を見ることがかなわない徒人が羨ましい限りである。 それくらいに目の前の光景は恐ろしいものになっている。 もう、怨霊なのか妖なのかごちゃ混ぜになって判別がつかないほどたくさんいる光景はいっそのこと壮観といえよう。 「壮絶な光景だな」 「壮絶な光景ですね」 「「あははははっ!」」 もう笑うしかない。 「お前達・・・・・笑っていないでさっさと払うぞ」 吉昌は溜息を吐きつつも、己の息子達にそう話しかけた。 できることなら自分だって現実逃避したい・・・・・・・。 叶わぬ思いと分かりつつも、そう思わずにはいられない吉昌であった。 「しかしですね、父上。俺は退魔調伏はあんまり得意ではないのですよ?この光景を見て嘆きたくもなりますって」 「戯言を。お前の実力で駄目だと言ったら、他の者達は皆駄目ということになるぞ?」 「いやだなぁ父上。俺よりも適任な人は、それこそたくさんいますって」 「成親・・・・・・・」 「ははっ!希望ですよ希望!!そうであったらいいなぁ〜という」 「・・・・・・・はぁ」 いまいち掴み所のない息子の言動に、吉昌は額に手を当てて疲れたような重い溜息を吐く。 昌親はそんな父を憐憫の眼差しで見るのであった。 「―――とまぁ、与太話はここまでにして・・・・・・・一仕事やりましょうか?」 「そうですね、でないと徒人の中からも体調を崩してしまう人達が出てきてしまうかもしれませんからね」 「初めからそうしてくれ・・・・・・・・;;」 吉昌の苦悩が絶える事はない。 * * * 渦巻く妖気。 宙を飛び交う霊たちは休むまもなく次々と襲い掛かってくる。 「くっ!きりがない・・・・」 「ちっ!雑魚どもが!!!!」 「・・・・・・・・・」 「あーもうっ!うじゃうじゃと・・・・邪魔なのよ!!!!」 「っ!数が多すぎる・・・・・・・・」 襲い掛かってくる霊たちの相手をしていた紅蓮を初めとする神将達は、その数の多さに辟易していた。 力では圧倒的に強い神将達でも数では遥かに上回っている霊たち・・・・・・多勢に無勢とは正にこのことである。 いくら闘将が三人いるといえども、蛆虫の如く次から次へと湧き上がってくる霊たちに、その頬は引き攣り気味だ。 それは昌浩も一緒で、霊たちとは別に寛匡からの執拗な攻撃も加わっているので表情に出すことは叶わない。 次々と繰り出される攻撃に、飛び退いて避け、あるいは障壁を張っては防ぐ。 そんな防戦一方のやり取りを昌浩はしていた。 「ほらほら!防ぐだけじゃどうにもならないよ?昌浩!!」 「――っ!くそっ!!」 「俺を傷つけると自分も傷つくから攻撃できないの?あ、それはないか。昌浩、そういうことは気にしないもんね。・・・・・あぁ、そっか。術を人に放ってはいけないっていう教えを忠実に守ってるんだ?」 「!何でそのことを知ってるんだ?!」 「さぁ?何ででしょうっ」 「うわっ!」 寛匡は攻撃を途中で止め、避けようとした昌浩の足に足払いをかける。 昌浩はそれに見事に引っかかって地に転がる。 転んだ昌浩に突き立てようとした寛匡の剣を、勾陳の筆架叉が受け防ぐ。 「大丈夫か?昌浩」 「あ、ありがとう勾陳・・・・・・」 何だか先程から神将達に助けてもらってばかりなので、昌浩の胸中は申し訳なさで一杯だ。 「昌浩!大丈夫か?!」 「紅蓮・・・・・大丈夫だよ」 雑魚(紅蓮曰く)の相手をしていた紅蓮は、近くにいた霊たちを一掃して昌浩のもとへ来よとする。が、行く手をまた新たにやって来た霊たちが遮る。 「ちっ!」 目の前に立ちはだかる霊たちを、紅蓮は忌々しげに睨み付ける。 そんな紅蓮に、寛匡はおもしろそうに笑いながら話しかける。 「どう?神将。いくら力では上でも、こんなにうじゃうじゃいればそう簡単には片付けられないでしょ?」 「っ!貴様!!」 「まっ!そうでなければ困るんだけどね。こちらとしては戦力の分断・・・・・・足止めが目的だし?」 「ほぅ、そんなことを言っていいのか?こちらとしては、目的がわかれば動きやすい・・・・・・・・」 紅蓮と寛匡の会話を聞いていた勾陳は、目を眇めつつそう問い掛けた。 それに対して、寛匡は軽く肩を竦め事も無げに答えた。 「別に、それを教えたところであんた達を足止めすればいいだけの話だし?」 「随分な自信だな」 「できないことでもないでしょ?実際、何人か向こうに行くとしてこっちがもつの?今だって手一杯なのに・・・・・・・」 「ふっ、確かにな・・・・・・だが、なめてもらっては困る。我らは神将、魑魅魍魎ごとき人手が減ろうがどうとでもできる」 寛匡の言葉に、勾陳は軽く笑ってそう言った。 そんな勾陳に、寛匡も頷き返す。 「そうだろうねぇ〜。いくらたくさん霊がいるからって無尽蔵なわけじゃないし、時間の問題だよね」 「それも承知の上と?」 「もちろん。俺の目的はあくまでも時間稼ぎ!殲滅じゃないよ。っていうかそんなの無理だし」 そう話つつも、寛匡は勾陳に向かって走り出す。 キィン!と金属の擦れ合う音と共に、寛匡の剣と勾陳の筆架叉が交差する。 勾陳は筆架叉を持つ手に力を込め、剣を押し返し、弾く。 寛匡は、押し返された反動を利用して後方へ飛び退き、着地と共に霊力の刃を勾陳へと放つ。 勾陳はそれを神気を込めた刃で切り落とす。 寛匡はそれを見越していたのか、次の瞬間には勾陳の懐に飛び込み、剣を下段から上段へと振り上げる。 勾陳は一歩後退することでそれを避け、振り切った状態の剣を握る寛匡の手へ手刀を叩き込む。 カランと音を立てて剣が地面へと落ちる。 寛匡はそれを拾おうとはせず、大きく後ろへ跳び、勾陳との距離をあける。 ほんの極僅かの時間の間に、息が詰まるほどの攻防が成される。 他の者達は襲い掛かってくる霊たちの相手に忙しく、そんな二人の攻防を気にしているゆとりはない。 飛び退いた寛匡は、手刀を落とされた手を無感動に一瞥する。 「ふうん?やっぱり闘将だね。武術じゃどうしても敵わないか・・・・・・・・・」 「そういうことだ。足止めなど、潔く諦めるんだな」 「それはできないはなしだな〜。こっちとしては一分でも一秒でも長く足止めすることができた方がいいわけ。そう、悪足掻きをしてもね・・・・・・・・・・・・」 寛匡はそう言って徐に懐へと手を入れる。 懐から取り出したのは一振りの懐剣・・・・・・・・。 寛匡の一連の動作を見て、はっとしたような表情を作った勾陳。 寛匡の意図に気づいたのだ。 そんな勾陳の様子に構わず、寛匡は懐剣を鞘から抜き放つ。 キラリと銀光が一瞬煌く。 「たとえば、俺の命を消すのと引き換えに、昌浩を殺すまでは無理でも再起不能にするとか・・・・・・・・ね」 「!くっ!!!」 寛匡がこれからしようとしていることを防ぐため、勾陳は体を動かす。 以前、晴明は寛匡は身代わりみたいなものだといった。 呪いの藁人形みたく、確かな死を与えることこそないが、それでも本体にも影響が及ぶことは確か。 それが”死”だったら、本体は死ぬことはないが半永久的に床の住人となろう。 それは何としても阻止しなければならない。 それが晴明の下した判断。 そして、先日物の怪を呼び止め、勾陳達三人に話した内容でもあった。 昌浩のもとに闘将が三人もついたのは昌浩の護衛と、寛匡に怪我を負わせずに捕らえるためであった。 そう、怪我を―――ましてや致命傷など決して負わせてはならない。 なんせ寛匡は昌浩にとって、決して失くしてはならない存在なのだから―――――――。 ザシュッ!!! ぬくもりを持った紅い華が飛び散った。 消えることは怖くない。 それはただ、在るべき所に還るだけなのだから・・・・・・・・・・・・・・・・。 ![]() ![]() ※言い訳 短い。短すぎる・・・・・・・・。 ここが盛り上がり時なのに全然話が浮かんでこない;;(泣) てか、紅蓮の出番少なっ!昌浩のピンチを救うのが六合や勾陳って・・・・・・・おいしいとこ取りされてるし;; ごめんよ紅蓮!!(叫) 水鏡に関してのみ、スランプに突入しております。 話が纏まらない内に無理やり書き進めるからこんなことになるんだよ。反省。 感想などお聞かせください→掲示板 2006/3/23 |