昌浩と敏次、そして物の怪は前方を見据える。
おどろおどろしい叫びと共に、鬼女が姿を現す。
眼が爛々と輝いており、長い髪の毛が蛇の如く波打つ。
「これが例の鬼女・・・・昌浩殿、君は後ろに下がっていなさい」
「・・・・・わかりました」
直丁の彼では調伏は難しいと考えたのか、敏次は昌浩を後ろに下がらせた。
やや心配げな面持ちの昌浩は一つ頷くと、そっと敏次の背後に控えた。
それを眼の端で見届けた敏次は、改めて鬼女に顔を向けた。
鋭い眼光で鬼女はこちらを睨みつけてくる。
濃厚な妖気が辺り一帯を包み込む。
肌をぴりぴりと刺激するほどの気迫に、敏次はごくりと唾を飲み込む。
そんな敏次の様子を横目で見ていた物の怪は、不機嫌そうに眼を眇める。
「おいおい、これしきの相手で竦むようじゃ陰陽師やってけないそぉ?一応、仮にも!陰陽生筆頭なんだからしっかりしろよなぁ・・・・・・」
「・・・・でも、あの気迫はすごいと思うよ。何て言うか・・・・鬼気迫る勢い?あれで詰め寄られたら仰け反っちゃうんじゃないかな?」
「そういう問題じゃないだろう・・・・」
「え、そう?」
俺だったらそうなりそう・・・・・・。
鬼女と対峙する敏次の背を見つつ、昌浩は小さな声で呟く。
そう呟いた昌浩を物の怪は呆れたような眼で見る。
昌浩と物の怪がそんなやり取りをしている間に、敏次は鬼女に向けて術を放っていた。
「まがものよ、禍者よ、いざ立ち返れ、もとの住処へ!」
「くっ!邪魔をするな、おんみょうじぃ――――!!!」
ぶわりっと禍々しい妖気が、鬼女を中心に広がる。
襲い掛かる妖気の激しさに耐え切れなくなった敏次は、そのまま大路の端の邸の塀まで吹き飛んだ。
「―――っ!ぐぁっ!!!」
「!敏次殿!!」
「あの子をどこへやったのじゃ?!」
まだ直丁の自分が人前でほいほいと調伏するわけにはいかないので、今まで敏次に任せ傍観者に徹していた昌浩は声を上げる。
塀に背中をしたたかに打ち付けてしまったのだらろうか、敏次は低く呻き声を上げるだけで立ち上がろうとはしない。
そんな敏次に鬼女はゆっくりと近づき、蛇のようにうねるその髪を敏次の首へと巻きつける。
そのまま巻きつけた髪に力を入れて、敏次の体を持ち上げる。
「あの子をどこへやった?陰陽師、答えよ!!」
「・・・あ、あの子・・・とは・・・・・・・・?」
「妾の愛し子じゃ・・・・ずっと探しておるのに、見つからぬ」
”愛し子”という言葉を発した時のみだけ、鬼女の顔が弱冠優しさを帯びた顔をした。
が、次の敏次の言葉でまたもとの恐ろしい形相に立ち返る。
「・・・・・・し、らない・・・・・・・」
「なんじゃと?」
「わ、私はその子供の居場所など・・・・・・知らない・・・・・」
「おのれ白を切るつもりかっ!ならばこちらも考えがある・・・・・・・・」
鬼女はそう言うと、敏次の首に巻きついた髪の毛を段々と絞め始めた。
「・・・・かはっ!」
「ほらほら、早く吾子の居場所を吐かぬと絞め殺してしまうぞ?」
「・・・っ!・・・だ、から・・・・知らない、と、言って・・・・いる!!」
「・・・・・・強情よのぅ・・・・・」
息も絶え絶えな敏次であったが、荒い息の下、知らないときっぱり告げる。
鬼女はそんな敏次の言葉にすっと目を細め、ぎりぎりと首を絞める髪に一層力を籠めた。
「!・・・・・ぁ・・・・・・」
「―――もうよい。貴様は不要じゃ・・・・・・」
鬼女はそうとだけ吐き捨てると、敏次を絞め殺すため髪に力を籠める。
首を絞められている敏次は、最早思考は働かなくなっていた。
酸素の回らない頭は段々と白く霞んでくる。
真言を唱えようにも、気道が塞がれていては唱えることもかなわない。
もう、だめか。
諦めにも似た思いが敏次の心を満たす。
―――が、そんな絶望をたった一言が薙ぎ払った。
「斬っ!!」
鋭い掛け声と共に放たれた清冽な霊力。
切り裂く刃となった霊気は、鬼女の髪を切り裂き、敏次と鬼女を切り離す。
「!貴様―――!!」
思わぬ方向から放たれた攻撃に、鬼女はその方向へと顔を向ける。
鬼女が睨みつけた先。
そこには今まで大人しく控えていた昌浩が立っていた――――――。
※言い訳
えーと、本当に久々に慈母の行く先〜を更新しました。
なんか、とっしーだけえらい目に遭っています。いや、決して虐めたいわけではないですよ?
というか、昌浩の存在感が・・・・・・というより敏次と昌浩がお互いに視界に入れてない気がする・・・・・・あれ?どうしてこんな話になってしまったんだ?!それはおかしいよね・・・・・。
敏次の行動が、ついさっきまで昌浩を疑っていたようには見えない感じがうけますが、未だにちゃんと疑っていますよ?ただ、鬼女に気を取られすぎているだけで・・・・・(焦)
2006/5/2 |