闇が囁く。









取り戻したくはないか?と。









それに対して自分は是と応えた。









こんな愚か者をどうかお許し下さい。









それでも、どうしても取り戻したいものがあったのだから―――――――――――。















沈滞の消光を呼び覚ませ〜参〜















静かに眠る子供。


その子供を宮毘羅は黙って見つめていた。


「何故、お前があの方の力を宿しているのだ――――?」


胸中に燻る疑問を投げかけても、眠る子供は答えない。
当然だ。
子供は今、宮毘羅が施した術によって眠り続けているのだから・・・・・・・。


「あの方は、一体何を考えている?」


宮毘羅は自問するかのように、虚空へと言葉を放つ。
まるで、そうすれば何処からか答えが返ってくるかのように。





『お前が欲して止まない大事な者を取り返す手伝いをしてやろう』





玉の中で微睡ろんでいた自分に、声を掛けてきた姿無き存在。





『その檻から抜け出したかろう?同胞を、至高の存在をその手に取り戻したいのだろう?』





姿無き存在は、まるで誘うかのように耳元で囁いた。
取り戻す機会が欲しくはないか?
”それ”は無力感に打ちひしがれていた自分に囁き続ける。
己の意思でまた動けるように、自由になりたくはないかと・・・・・。

なんと甘美な言葉か―――――。

思考に靄がかかったような状態のなか、己は虚ろに頷いた。

姿無き存在は、その様を見て笑んだ。





『そうか、取り戻したいか?そうだろう、そうだろう。ただし一つ条件がある』

・・・・・・条件?

『なに、とても簡単なことよ。私がこれから言う、ある”望み”を叶えてくれればいい。安心しろ、そんな無理難題を頼むつもりはないさ』

ただより安いものはない、か。・・・・・・わかった、お前の望みとはなんだ?

『私の望みか?それはだな―――――――――――』







「私も堕ちたものだな・・・・・・・神の身であるというのに、煩悩を完全に退けることができなかった・・・・・」


宮毘羅は悲しげに瞳を揺らす。

静寂な空間に、彼の独り言が漣のように広がる。


「・・・・・ふっ、これしきのことで情けないな。私はあの方を取り戻すまでは修羅となろうと心に決めたというのに」


宮毘羅は昏々と眠るその子供の頬にそっと手を添える。
頬に添えた掌から、微かな温もりが伝わってくる。

それは生きているという何よりの証拠。
生命が生み出す熱。


「何故お前があの方の力を宿しているのかはこの際どうでもいい。しかし、その力は今後必要になってくるだろう・・・・・・・・悪いが返させて貰うぞ」


宮毘羅は眠る子供の額に手を当て、静かに目を瞑った。


サワリ・・・・・。


神気の波紋が静かに広がった。





何かを成し遂げるために、犠牲というものは必要なのだ。



軋む心の中、鎮撫させるように自分に言い聞かせた―――――――。







                       *    *    *







安倍低へと戻った物の怪達は、消沈した空気で晴明にことの詳細を報告した。


「そうであったか・・・・・昌浩が・・・・・・」

「すまない。俺達が付いていながら・・・・・・・・」

「これは我等三人の責だ。闘将が三人も付いていながら不甲斐ない」

「責任を持って、必ず取り返そう」


口重に呟く晴明に、闘将三人は各々に己の胸中を語った。

いくら昌浩を危険な目に合わせる可能性があり、それを懸念して大きな行動を起こせなかったとはいえ、敵の手にみすみす奪われてしまえば元も子もない。
あの状況で昌浩をさっさと奪い返しに行動を起こさなかったのは、大きな誤りであった。

晴明の前に単座する彼らは、己の不甲斐なさに歯を食いしばった。


「もうよい。あまり己を責めるでない。悔やんだところで昌浩は戻ってきやせん」

「しかし・・・・・・・」

「後悔するなとは言わん。じゃが、悔やんでいる暇があるのなら状況を整理し、一刻も早く昌浩を取り返すことの方が大事じゃとは思わぬか?」


少し厳しい物言いにはなるが、自責の念で足を囚われるよりも、”昌浩を取り返す”という明確な目的に専念して欲しいと晴明は思った。


「あ、あぁ・・・・・お前の言うとおりだ、晴明・・・・・・・・」

「わかればよい。六合、勾陳もじゃぞ?」

「・・・・・承知した。今は昌浩を取り戻すことだけに専念しよう」

「そうだな。今はそれを考えるのが最も重要だな・・・・・・」


晴明の言葉を受けて、闘将三人は力強く頷いて返した。

昌浩を取り返す。

闘将三人のみではなく、晴明も・・・・・・話を聞いていた他の神将達も。皆心に固く誓うのであった。


「・・・・・それで、話は戻るのじゃが。その宮毘羅(くびら)と名乗った武神は、己も『十二神将』だと言ったのだな?」

「あぁ。確かにそう言っていた」

「我等三人が聞いていたんだ、聞き間違いではないだろう」

「・・・・・・晴明。何か心当たりがあるのか?」


確認するように相手の特徴を聞き返す晴明に、三人とも是と首肯する。
その中で六合が晴明の表情が微妙に変化したことに気づき、疑問を問う。


「宮毘羅・・・・・武将・・・・・仕える・・・・・・そして『十二神将』。うむ。やはり間違いないじゃろう・・・・・その者の正体に心当たりがある」

「本当か!晴明?!」

「して、やつの正体とは一体なんだ?」


ほぼ間違いなくと言っていいほどに確信に満ちた顔をする晴明に、物の怪は大きく表情を動かして食いつかんばかりに詰め寄る。
物の怪ほど大振りな態度は取らないが、勾陳も六合も早く教えろと視線で訴える。

晴明はそんな彼らを見ながら、ゆっくりと口を開いた。


「宮毘羅が言っておった”あの方”というのは、おそらく『薬師瑠璃光如来』のことじゃろう。・・・・・そして宮毘羅・・・・・・宮毘羅大将は薬師瑠璃光如来に仕える十二の武神の一人、『十二夜叉大将』じゃ。







―――――彼らは間違いなく、『十二神将』と呼ばれる存在じゃよ」








その場で晴明の話を聞いていた者達は、皆驚きに目を瞠った――――――――。

















                        

※言い訳
なんだかんだと言いつつも、さらに続きをup致しました。
ここに来て、漸く大まかな話の骨組みが出来上がりました。
今回のお話も敵は二段構えということで。(笑)といっても、もうすでに第一陣の敵さんの正体は早々にばらさせてもらいました。
え?なんでんな早くばらしたのかって?こちらにも色々と×2都合がありましてね・・・・・。
まぁ、これでスムーズにお話が書けるんではないかと思います。

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2006/6/25