気まぐれで立ち寄ったとある街。









そこで偶然見つけた面白い存在。









すぐに手を出してもいいと思ったが、考え直して少し待ってみることにした。









一体どのような生を送るのか、様子を見てみようと思った。









さて、お前はあれからどんな生を過ごした――――――――?
















沈滞の消光を呼び覚ませ〜碌〜















視界を覆うは漆黒の闇。

目を閉じていた”それ”はゆっくりと瞼を持ち上げた。
持ち上がった瞼の下から、爛々と輝く金の瞳が現れる。


「封じの鎖が断ち切れたか・・・・・・・予定通りだな・・・・・」


実際に目の前で起こっているわけではない事象をその眼に映し、”それ”はクツリと喉で低く笑った。
フオンッという何かが空気を打ち揺らす音と共に、銀色の光が翻る。
その数は八つ。
八つが八つ、長大なそれは個別に優美な動きを見せる。


「さて、彼奴(きゃつ)がきちんとした役割を果たさねば、我が分け身はあの地に踏み入ることができぬな・・・・・・・・」


”それ”は何か思案するようにその金眼を細めた。


「まぁ、彼奴が動けるようになったのならば、そう遠くないうちに役目を果たすか・・・・・・・・ならば、そう急くこともなかろう」


”それ”は独り言を続ける。

周りに気配は一つとしてない。
配下に命を下して”それ”は一時期的に思考の深淵に沈む。


「さて、”あれ”はこちらを振り向いてくれるかな・・・・・・・・・・?」


”それ”は如何にも楽しそうに言葉を紡ぐ。

”それ”は眼を再び閉じ、少し昔の出来事を思い出す。

自分を見上げてくる無垢な瞳。
何者にも染められていない純粋な力。

本当はあの時に連れ去ってきたかったのだが、生憎とあの時は巡り合わせが悪かった。
何せ自分は方士の探知網を上手く掻い潜るために、力を十分の一以下に抑えていたのだから・・・・・。


「楽しみにしておるぞ、―――――」


呟きは闇に飲まれる――――――。







                       *    *    *







「・・・・・・・・ふぅ」


占盤を凝視していた晴明は、芳しくない結果に重い息を吐いた。

連れ去られた末孫の行方、並びにそれを取り巻く環境を占じてみたのだが、その結果は酷く曖昧としたものであった。
占いが示す言葉はどれも抽象的で要領が掴めず、唯一掴み取れた言葉は『覚醒』。
今までの話の流れで素直にその意味を受け取るなら、『覚醒』するのは薬師如来のことだろう。
しかし見る範囲を狭めては、大事なことを見落とす可能性とてある。
故に『覚醒』の指す他の意味を考えてみた。しかし、何も心当たりが思い浮かばない。

晴明は思考を一旦中断し、立ち上がって簀子へと足を進める。
簀子へと出た晴明は、内に篭った靄を吐き出すかのように深く息を吐いた。

そして晴明は視線を上へと向ける。
夜明けにはまだ幾分か早い群青色の空を見上げる。
空を覆う雲は一つとしてなく、燦然と輝く星々が眼に入ってくる。

そんな星々を何気なく見ていた晴明は、ふと何かに気づいたように眼を瞬かせた。
そして次の瞬間には驚愕したように眼を見張った。


「こ、れは・・・・・・・・」


晴明の喉から擦れた呟きが漏れる。

しばらくの間何かを探すように空に眼を彷徨わせていた晴明であったが、諦めたように息を吐くと厳しい表情で己の部屋に戻り、再び占盤へと視線を注ぐ。
僅かながらに時が経過した後、やはり重い溜息を吐いて晴明は占盤から視線を外した。
自分が予想していたようなことは何も示されなかった。
ただただ、茫洋とした掴みがたい結果しか返ってこない。

晴明はもう一度息を吐き、少し苛立ちの篭った視線を占盤に投げ遣った。


「―――晴明様」

「ん?どうかしたのか、天一・・・・・」


さわりと空気が動くと共に、心配を含んだ涼やかな声が背後から掛かる。
晴明は背後を振り返らずに、その声の主に言葉のみ問いかけた。


「これ以上起きていてはお体に障ります。どうかお休みになってください・・・・・・」

「わかっておる。これを片付けたらもう寝るわい」

「そうなさってください。他の者達も心配しておりますから」

「ったく、あ奴らも心配性じゃな・・・・・」

「それ程に私たちにとっては、晴明様が大事なのですから・・・・・お察しください」

「それもわかっておるわ・・・・・・・」


やれやれと晴明は首を振りつつも、占盤を片付け始める。


「・・・・・天一。わしが朝餉を取り終わったら、わしの部屋に来るように紅蓮、六合、勾陳に伝えておいて貰えるかの?」

「承知致しました」


天一はそう返事をすると、静かに姿を消した。


晴明はそれを見送った後、視線を外へと向ける。
その瞳は困惑に微かに揺れていた・・・・・・・。


「一波乱、来るかもしれんの・・・・・・・・・・・・」


それは確信めいた予兆。



晴明は末孫のことを思い、静かに眼を伏せた――――――――。















「占いで何かわかったのか?晴明」


天一の伝言のもと、晴明の部屋に集まった闘将三人は部屋の主へと視線を向けた。
真摯に見つめてくる三対の瞳に、晴明は僅かながらに渋い表情をしつつ首を横に振った。


「いや・・・・・・占いでは特にこれといった結果は出んかった」

「?なら、何で俺たちをここに呼んだんだ??」

「待て、騰蛇。晴明は占い『では』と言っていた・・・・・・・他の事で何かわかったことがあるのだろう。違うか?晴明」


訝しげに晴明に問いかけた物の怪を勾陳は制し、晴明へ確認を取るように問いかけた。
鋭利に煌く黒曜石に見据えられ、晴明は観念したように頷いた。


「・・・・相変わらず察しがよいのぅ、勾陳」

「回りくどい言い回しは止せ、晴明」

「何かわかったことがあるのだろう?それもあまり良くないことが・・・・・」

「さっさと言え。あまり気が長いわけじゃないからな」


勾陳、六合、物の怪の三人は、晴明に『早くしろ』と目線で促した。
晴明も一つ頷いて返し、口を開いた。


「さっきも言ったが、占いでわかったことはほとんどない。じゃが、一つだけ大きく変じを示しているものがあった・・・・・」

「・・・・・?占いではっきりしたことがわからなかったのにか?」

「あぁ、あれだけは眼の疑いようもないしな・・・・」

「その示していたものとはなんだ、晴明?」


晴明の重い口調から、できれば信じたくないという心情がありありと見て取れる。
そんな晴明の様子を見て、闘将三人の胸中に黒いわだかまりが生じる。

傍から見ても、お世辞にも良い知らせとは言えないようだ。


「・・・・・・・星が・・・・・・・・・・・・」


晴明がぽつりと呟くように言葉を零した。









「昌浩の星が、薄弱になった・・・・・・・・・」









その場の空気が凍りつく。



三人が三様、どれも芳しくない表情を作る。















星が薄弱になる。








それが指す意味は――――――――――。


















                        

※言い訳
『沈滞の消光(略)』の続きをupしました。
段々書いている本人も意味不明になってきました;;
未だ正体不明の”それ”。
”それ”の正体については第二幕の方で明らかになります。(十二神将編は第一幕。)
それまでは『毎回毎回なんだよこいつ』程度に思っていてください。

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2006/7/4