無垢な心を抱く魂よ。 唯一無二の愛しき眷属者よ。 来たれ、我が下に。 思い出せ、真なる居場所はどこであるか。 思い出せ、真なる己の姿を。 約束の時は直ぐそこまでやって来ている―――――――――。 |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜捌〜 |
水の中を漂うような感覚。 覚えの無い感覚に、そっと閉じていた眼を開く。 何も見えない。 開けた視界に映り込むのは漆黒。 これでは自分が本当に眼を開けているのかわからない。 意図的に数度瞬きをすることによって、己がきちんと眼を開けていることを確認する。 ここはどこなのだろう? 当然と言えば当然の疑問が沸き起こる。 そもそも自分はどうして―――どうやってここにきたのだろうか。 少し前までの記憶を手繰り寄せる。 ―――が、何も思い出せない。 少し前まであった出来事どころか、今まで生きてきた記憶、己が”誰”なのか全く思い出せない。 そんな馬鹿な・・・・・・・。 己が”誰”であるのかをはっきりと認識することができるのに、それに付随する正確な情報が浮かび上がってこない。 家族構成を覚えている。それなのに家族一人一人の顔、名前が思い出せない。自分が出仕していることだって覚えている。けれど、どんな仕事内容で、どんな人達の下で働いていたのかを思い出せない・・・・・・・・。 漠然とした記憶はきちんとあるのに、細やかに思い出そうとすると何も思い出せない。 まるで霧か水を掴むかのように形を成さずに散じる。 その事実に行き当たり、愕然とした気持ちに陥った。 俺・・・・・俺は・・・・・・・・・。 誰? わからない。 何もわからない状況に唐突に不安感が込み上げる。 頬が強張り、指先が冷えていく。 小刻みに震えだす身体を、自ら抱きしめるように抑え付ける。 怖ろしいか?人の子よ――――。 !・・・誰? 孤独感に震えていると、ふいに闇の中から声が聞こえてきた。 完全に広がるのは完全な黒。 もちろん相手の姿など見えるはずもなく、低めの落ち着いた声のみが五感にその存在を知らせる。 相手の姿を見ることができないことに恐怖心と警戒心を抱きつつ、それでもこの途方も無い現状を打破するために声に向かって問いかける。 我か?我は古より存在するもの―――とでも言っておこうか。 反射的に口をついた問いに、姿無き声は答えた。 どうして・・・・・貴方はここにいるんだ? ここは我が生み出した亜空間。故に我がここにいても何らおかしいことはない。 じゃあ・・・・・・・どうして俺はここにいるんだろう? この空間が姿無き声が作り出したものだとすれば、自分がどうしてここにいるのかがわからない。どう考えたところで軽々しく訪れることが出来るような場所ではないことは明らかである。 その疑問には、姿無き声が答えた。 そんなことは簡単よ、我がお前を招き寄せたからだ。 ・・・・・・貴方が? 然り。現ではあまり悠長に話ができそうになかったのでな、お前が意識を無くしたのを丁度いい機会だと思って呼んでみたのだ。 それじゃあ、俺は貴方と話しをするためにここにいるのか。 左様。現だと何かしらが邪魔をするものでな・・・・・・物理的に言えばお前と我の距離も遠い。故にこのような手段で会うことにした。 この会話によってどうして自分がここにいるのかがわかった。 これでいくつかの疑問の内の一つが解消される。 それと同時に新しい疑問も生じたのだが・・・・・・。 時は満ちた。覚醒の時は近い・・・・・。 ・・・・え? 内に沈められた力は、その覚醒をもって外へと開放される。 何を、言ってるんだ? 思い出せ、我とお前は道を同じくするもの。唯一無二の眷属―――――。 ・・・・・わからない。何も、思い出せない。 今はそれでよい。然る時が訪れれば、必ずや思い出せるだろう。 ・・・・・本当?絶対に思い出せるのか? あぁ、絶対にだ。・・・・・その来るべき時まで、今は眠れ・・・・・・・・・。 それが合図なのか、あの水に漂う感覚が強くなり強い睡魔が襲ってくる。 深く沈み込もうとする意識に必死に抗いつつ、もう一つだけ問いかけた。 あ、なたの・・・・・・名前、は・・・・・・・? ・・・・・・我の名は―――だ。 必死の抵抗も空しく、肝心なところを聞き取ることができないまま、その思惟は深淵へと沈んでいった。 もう、何も考えることができない。 深い眠りに落ち行く様を、姿無き存在は静かに見届けた――――――。 ![]() ![]() ※言い訳 短っ?!うわっ、物凄く短い文章になっちゃったよ・・・・・・・;; 久々に更新したのにこの短さって・・・・・・駄目ですか?駄目ですよね・・・・・・・・。 うん、続きを明日にでも更新しよう。 というわけなので、こんな短文で許してください(泣) 感想などお聞かせください→掲示板 2006/8/7 |