求め人はどこにいる?









未だわからぬ居場所。









求める心ばかりが焦らされる。









取り戻したい。









必死に伸ばされた指先は掴み取ることができるだろうか――――――?















沈滞の消光を呼び覚ませ〜拾〜















「では、尋ねよう。お前達は十二夜叉大将か?」


黒曜の瞳を鋭利に輝かせて、勾陳は問い掛ける。

眼前に佇んでいる二人組みが十二夜叉大将であるという確信はしている。だが、確証がない。
故に問う。お前達は十二夜叉大将であるか、と。
屈折した遠まわしな物聞きなどしない、率直に必要なことのみを聞く。


「えらい率直に尋ねるなぁ姐さん。まっ、答えたるわ。そや、俺らは十二夜叉大将と呼ばれる者や」

「ここ数日の都の結界の揺らぎは、貴様らを封じていた宝珠の破壊によって生じているものだな?」

「その通りや、色黒の兄さん。俺らが封じられとった宝珠は、都の結界の補強みたいな役割をしとったからな、当たり前やな」


迷企羅(めきら)は紅蓮達の疑問に、気前良く答えていく。
もともと口数は少ない波夷羅(はいら)は、沈黙を保って会話の応酬を迷企羅に任せる。
無論、迷企羅が余計なことを口走りそうになったら直ぐに制止の声を掛ける心積もりだ。


「では、次の質問をさせて貰おう。お前達は封じから逃れて何をしようとしている?」

「何も?ただ在るべき場所に帰るだけや。全員が揃えば、俺らは直ぐにでもこの都を去る。あんさんらには何の迷惑も掛けへん」

「何の迷惑も掛けていない?違うな。我々は既に掛かっている」

「は?何がや??」


迷惑はもう既に掛けられていると言う勾陳に、覚えのない迷企羅は首を傾げる。
迷企羅の隣で控えている波夷羅も、少々怪訝そうに両者の遣り取りを見ている。

口を開いたのは、今まで口を閉ざしていた六合。


「昌浩を攫った・・・・・・・・」

「・・・・何やと?」

「十三・四位の子どもだ。宮毘羅(くびら)と名乗ったお前達の仲間が攫った・・・・・」

「十三位の、子ども・・・・・」


迷企羅の脳裏に浮かんだのは、青ざめた顔をした子どもの姿。
自分達を、そして残りの珠に封じられている仲間を助け出すために、宮毘羅に連れられている子ども。
確かにあの子どもの歳もそれ位だろう。

大いに思い当たる。

つまり、彼らがこうして自分達を引き止めているのは、その子どもについての情報を聞き出すため。
きっと都で見慣れない気配を察知して、直ぐに駆け参じて来たのだろう。
自分達をきつく見据えてくる彼らの表情が、それを如実に物語っている。


「昌浩はどこにいる?」

「さぁ・・・・な、それを俺らが教えるとでも?」


昌浩という名の子どもの居場所。
それは同時に宮毘羅達の居場所を指す。

子どもを捜している彼らには悪いが、あの子どもの居所を教えてやることはできない。


「教えないだろうな。・・・・・・しかし、ここでお前達を捕らえれば奴らも出て来なざる負えないだろうな?何せ仲間を助け出すために子どもを攫った程だからな、相当仲間意識が強いようだ」

「俺らを人質にするってか?そう言われて易々と捕まってやる奴はおらんで?」

「無論、言われるまでもない。実力行使だ。我々は全力でお前達を捕らえに掛かるぞ?それが嫌なのならば、お前達も全力で抗うことだ」


勾陳はそう言うと筆架叉を徐に取り出し、構える。
勾陳の動きを合図に、紅蓮と六合も各々の武器を取り出して戦闘態勢に入る。
昌浩を取り戻すため、もうこの際卑怯云々などと言ってはいられない。


「何か姐さんが言うてること、悪者じみてるで?」

「一応、悪者はそちらの方なのだがな・・・・・・」


迷企羅の言葉に、勾陳は軽く苦笑を漏らす。
勾陳とてそのことは十分に承知しているらしい・・・・・。


「ま、しゃあない。精一杯抵抗させて貰いますわ。やるで?波夷羅」

「人数、不利。力も・・・・・。得策、言えない」

「そんなこと、俺かて十分にわかっとるわ!ほなら、抵抗も何もせいへんで捕まってもええんか?」

「否。迷惑掛ける、嫌」

「そやな・・・・。ちゅうことは、だ。あちらさんの隙をついて退くしか手はないやろ?」

「・・・・応。承知」

「ほなら決まりやな」


迷企羅はそう言って挑発的な笑みを口元に浮かべると、どこからともなく独鈷(とっこしょ)を取り出した。
波夷羅も弓矢を取り出し、鏃(やじり)を勾陳達へと向ける。

それを見て、勾陳達も各々に神気を高める。


「行くで!!」


迷企羅は鋭くそう叫ぶと、素早い動きで勾陳達へと突っ込んで行った――――――。







                      *    *    *







宮毘羅は閉じていた目をふいに開けた。


「?どうしたの?宮毘羅・・・・・」


宮毘羅のささやかな変化に気づいた因達羅(いんだら)は、訝しげな表情で問い掛ける。


「迷企羅達の気に乱れが生じた。恐らくは戦闘を行っている・・・・・・・」

「そんな・・・・では、助けに行かないと」

「いや、早々に次の封じを破壊しに行く」

「!どうして?!迷企羅達が危ないかもしれないのにっ!!?」

「だからこそ、だ。きっと相手は十二神将。今やつらの気が逸れている間に封じを破った方が得策だ。それに、迷企羅達は隙を突いて逃げ出してくるだろう。心配する必要はない」

「宮毘羅・・・・・・」


宮毘羅の言っている言葉は一見してとても冷たいように聞こえるが、その実信頼と自信をとても込めたものであった。

信頼しているからこそ、その機会を利用して次の仲間の解放を行おうと言う。
自信があるからこそ、少しでも前へと進もうとする。


「大丈夫だ。迷企羅達は無事に戻ってくる・・・・・・」

「・・・・・えぇ、私も信じているわ」

「ならば行くぞ、次の封じを壊しに」


宮毘羅はそう言うと、伐折羅(ばさら)達を呼びに踵を返した。
その場には因達羅と、いまだに眠る子どもが残された。


「・・・・・・ごめんなさい。あなたにまた無理をさせてしまうわね・・・・・・・・」


静かに眠る子どもの髪をゆっくりと撫でつつ、因達羅は諦念の思いで息を吐いた。









「何?何かあったの?宮毘羅」


宮毘羅呼び集められた摩虎羅(まこら)は憮然とした様子で問い掛ける。
同様に集まった伐折羅も言葉こそ発しないが、その視線はどうしたと問うものであった。


「おそらくではあるが、現在迷企羅達は十二神将と対峙している。そこでだ、俺達は奴らが迷企羅達に気を引き付けられている間に、次の封じを破壊しに行こうと思う」

「なるほどねぇ・・・・・。ま、今が一番動きやすいのは確かか。だったら皆先に行っててよ、僕は迷企羅達の手助けに向かうからさ。三人ずつで分かれるにしても丁度いいんじゃない?」


現状の様子を聞いた摩虎羅は、深く考えることもなくあっさりと別行動を申請する。
摩虎羅の言い分を聞いた宮毘羅は、納得したように一つ頷く。


「確かに・・・・・あちらが何人なのかはわからないが、迷企羅達が退避しやすくなるという点を考えるのならば摩虎羅の言い分は正しいな」

「わかったのならさっさと行きなよ。直ぐに僕達も後を追うからさ」

「わかったわ。・・・・・・無理をしないでちょうだいね、摩虎羅」

「誰に物言ってるのさ、因達羅。言われなくてもそうするよ」

「そう・・・・それなら別にいいわ」


心配する因達羅に軽く手を振り、摩虎羅は不遜な物言いを残して迷企羅達の元へと駆けていった。


「さて、我々も行くぞ。あいつらに嗅ぎ付けられる前にな・・・・・・」

「えぇ、行きましょう」

「一刻も早く、瑠璃様を助け出さないとな・・・・・・」


宮毘羅達は互いに頷き合うと、同時にその場から姿を消した。











目指すは東。卯の方角――――――。
















                        

※言い訳
今回のお話は勾陳の土壇場でした。紅蓮と六合の出番が少ぬぇ――っ!!!?
つーか、何気に言ってることが悪役?どうしよう、こんな会話になるはずではなかったのに・・・・(泣)
昌浩の出番もほとんど無し!というか、喋らなくなって何話くらい経っただろう?いい加減会話をさせたい。でも、もうしばらくは無理なんだよな・・・・・・残り六名を開放し終わるまでは。(どのくらい後になるんだよっ?!!)
紅蓮達とも会わせてあげたい・・・・・・。(けど、今は戦闘中)
オリキャラばっかり出張っていてうんざりしているとは思いますが、もう少しのご辛抱をお願いします。

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2006/8/14