数瞬の邂逅。 僅かに交わされた視線。 懸命に伸ばした掌は空を掻き 掴み返されることはなかった。 口は無意識に愛し子の名を紡いだ――――――――。 |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜拾弐〜 |
「オンアビラウンキャンシャラクタン!!」 「っ!なめるなっ!!」 晴明の紡ぐ言の葉が、見えない刃となって宮毘羅(くびら)へと襲い掛かる。 宮毘羅はその刃を怒号と共に太刀で切り払う。 そのままの勢いで晴明へと斬りかかるが、玄武が作り出した結界によって阻まれる。 「晴明!くそっ、波流壁!!」 「――っ!目障りだな、その結界は・・・・・・・」 宮毘羅は忌々しげに玄武の結界を睥睨し、手にしている太刀に力を込める。 太刀が流れ込む力に呼応して、仄白く輝き出す。 「はあぁっっ!」 「くっ・・・・このままでは結界は長くは持たない!」 淡い輝きを放つ太刀で宮毘羅が改めて斬りかかってくる。 太刀と結界が反発しあい、耳障りな雷鳴じみた音と火花を散らす。 震える腕に叱咤を入れつつ、玄武は苦々しげに事実を口にする。 攻撃の術を持たず、守りの力のみを有している玄武であっても難攻不落の障壁を築けるわけではない。 織り成した結界がたわみ、ギシギシと悲鳴を上げる。 徐々に押されつつある力に、止めどない汗が頬を伝い滴り落ちる。 強い。流石は武神を名乗ることだけはある。 その攻撃力は凄まじいものだ。 ビキッ!パリイィィィン!!! 軋む音が臨界点に達した次の瞬間、一際高い破砕音が周囲に響き渡る。 玄武の結界が破られたのだ。 宮毘羅は玄武の結界を破ると同時に、己を見据える老人に向かって攻撃を仕掛ける。 晴明の半歩後ろで控えていた天一が、晴明を護ろうと前へ踏み出そうとする。 が、それを晴明は手で制し、挑むように一歩前へ歩み出す。 「縛縛縛、不動縛!!」 晴明が呪文を唱えると同時に、宮毘羅へと無数の鎖が放たれる。 その一本一本が宮毘羅の四肢へと巻きつき、動きを封じる。 しかし宮毘羅は動きを封じられたことに慌てず、逆に鼻で笑い飛ばした。 「はっ!このような戒め、気休めにもならんわ!!」 宮毘羅から膨大な神気が立ち上り、晴明の術を無効化にしていく。 「この程度で動きを封じることができるなどと思うなよ?ご老体」 「・・・・流石じゃのう。まぁ、これしきのことで取り返すことは諦めんがの」 「ふぅ・・・・仕方ない。我々の目的はあくまで仲間の解放だ。このようなところで力を浪費するつもりなど、毛頭にない。因達羅(いんだら)!珠を!!」 「わかったわ!」 珠を取ってくるよう指示を受けた因達羅は、背後に守っていた子どもの存在を気にかけるが、宮毘羅がこちらへと戻ってくるのを見て祠へと疾駆する。 それを見て、晴明は瞬時に指示を下す。 「!天一、珠を守れ!!朱雀!昌浩を」 「!はい!!」 「わかっている!」 指示を受けた天一と朱雀は各々に行動を起こす。 天一は珠が納められている祠へと走り、朱雀はそれまで相手にしていた伐折羅(ばさら)を振り切って昌浩へと駆け寄る。 何としてでも朱雀を足止めしようとする伐折羅を、手の空いた太陰が風を起こして邪魔をする。 「昌浩っ!!」 朱雀は放心したように立ち尽くしている昌浩に、精一杯手を伸ばす。 朱雀があと少しで昌浩に触れるか触れないかの距離まで近づいた時、昌浩の姿が唐突に掻き消える。 「なにっ?!」 「この子どもは渡さんと言っただろうっ!!」 寸でのところで宮毘羅の方が早かったのだ。 彼の腕の中に子どもの姿があった。 「ちっ!昌浩を放しやがれ!!」 「馬鹿か貴様は。何度も同じことを言わせるな」 太刀を取り出し、早々に追撃をしようとする朱雀から大きく飛び退いて距離を取る宮毘羅。 宮毘羅は昌浩を片腕で抱えたまま、朱雀の剣戟を迎え撃った。 「そこを退きなさい。さもなくば容赦なく攻撃するわよ?」 因達羅は己の得物である鉾を取り出し、脅しの意を含めて目の前に立ち塞ぐ金髪の少女へとその切っ先を突きつける。 「できません。主である晴明様より珠を守るよう、仰せつかっていますから」 「頑なね。いいわ、力づくでもそこをどいてもらうわ!!」 「させません!!」 因達羅は鉾を構え、敵を排除するべく躍り掛かった。 天一も強固な障壁を織り成し、それを迎え撃つ。 バチバチッ!! 鉾先と障壁の間に、青い火花が生じる。 因達羅は一旦その場を飛び退き、再び突撃の構えを取る。 「私と貴女、どちらがより長く持つかしら?」 因達羅は独白じみた呟きを口の中で響かせると、再び跳躍して結界の破壊へと取り掛かった。 一閃、二閃・・・・・・・・・。 因達羅は手を休めることもなく、連続して攻撃を結界へと加えていく。 次々と銀の閃きが天一を襲う。 天一はそれを必死に耐え抜く。 掌を通じて、結界がびりびりと震えていることが感じられる。 一つ一つの震えは共鳴し合い、更に大きな振動へと拡大していく。 やがては結界全体が激しい震えを帯びていった。 「―――っ、あ・・・・・・・」 もたない。 そう胸中で思ってしまった天一は、悔しげに眉を顰めた。 悔しい。 いつも守るべきものがある時に限って、この障壁は最後まで持ってはくれないのだ。 (お願い、どうか持ち抜いて―――!!) 天一は切にそのことだけを祈った。 (なかなか持ち堪えるわね・・・・・・) 無数の水滴を散らしつつ、因達羅は激しい攻撃を続ける。 晴明という名の老人を警戒しつつの猛攻撃だ。身体的にも精神的にもかなり辛い。 自分は宮毘羅ほど攻撃力を有していないのだ。 相手の体力を確実に削っていくしか術はない。 一閃、一閃に力を込め、相手の結界に攻撃を加える。 相手の方もかなり辛そうだ。 そこのところを見ればこの方法も効果があるのは確かだ。 しかし、いつ邪魔者が入るのかわからない状況だ。持久戦に持ち込むのは得策ではない。 内心じわじわと迫りくる焦燥感を押さえ込みつつ、因達羅はひたすらに連戟を繰り出す。 双方とも確実に力を削がれている状況下、ふいに声が響いた。 「何ちまちまと攻撃してるのさ、因達羅。僕達だって暇じゃないんだよ?」 突如、あらぬ方向から目には見えぬ衝撃波が飛来する。 「きゃあぁぁぁっ?!」 その重く、強力な衝撃波は一撃で障壁を砕き散らした。 攻撃の余波を受けて、天一が祠から離れた場所へと吹き飛ばされる。 「この攻撃は・・・・・・・・・・摩虎羅?」 「何ぼさっと突っ立ってるの?因達羅。珠はこうして手に入れたことだし、さっさと撤退するよ」 祠の前にひらりと身を翻して現れた摩虎羅は、祠から珠を取り出すとそれを因達羅に向かって放り投げた。 因達羅は投げ寄越されたそれを慌てて受け取る。 深い紫紺色をした珠。 「手を煩わせてしまったわね・・・・・ごめんなさい、摩虎羅」 「別に気にしなくていいよ。そんなことよりこんなところで時間を食われる方が嫌だし。僕はさっさと瑠璃様を助け出したいだけだしね、利害の一致さ」 「・・・・・・そうね・・・・・」 「ほら。迷企羅達が足止め役を買って出てくれている間に、あの子どもを連れてさっさと安全なところまで行くよ。ったく、今回はこんな役回りばっかだ・・・・・・・」 摩虎羅は愚痴めいた言葉を溢しつつ、宮毘羅達の元へ行くよう因達羅を促す。 因達羅はそこで漸く周囲へと視線を向けた。 いつのまにか迷企羅と波夷羅も戦闘員として加わり、晴明達を圧倒していた。 「そうね、今のうちに退いた方がいいわね」 「わかったら動く!―――宮毘羅!こっちはもういいよ!!さっさと退避して!!」 「わかった。足止め頼んだぞ、迷企羅」 「はいはい、わかっとるわ。さっさと退避せや」 「行くぞ、因達羅」 「えぇ・・・・」 「待てぇ―――っっ!!!」 その場から去ろうとした宮毘羅に向かって、龍の形を象った炎が放たれる。 「!紅蓮かっ!!」 「げっ!全くしぶとい奴らだなぁ・・・・もう追いついたのか」 「構うな。今は早々に引くぞ」 「わかってるって・・・・ばっ!!」 突然放たれた炎蛇に、それを放ったのが誰であるか正確に把握した晴明が、その本人の名を呼んだ。 摩虎羅も聞き覚えのある声に顔を顰めつつ、取り出した斧を振って追いついたばかりの紅蓮達へと衝撃波を放った。 「くっ・・・・・!昌浩っ!!」 漸く追いついたと思った途端に、襲い掛かってきた衝撃波を避ける紅蓮達。 視界の端を掠めた影と視線が合った気がした。 その影の正体を正確に見抜いた紅蓮は、万感たる想いでその子の名前を鋭く叫んだ。 必死に手を伸ばす紅蓮を嘲笑うかのように、昌浩を連れた十二夜叉大将達はあっという間にその場から姿を消す。 足止め役を買って出ていた夜叉大将達も、十分に逃げ切ったと判断したところで追撃を振り切って逃走した。 後には悔しげに眉を寄せる晴明、及び十二神将達が残された。 「昌浩・・・・・・・・」 紅蓮の口から、切なげに名前が零れた。 助け出すべく伸ばされた手は、寸でのところで空を掻いた―――――――。 ![]() ![]() ※言い訳 うおぉぉっ!?終わり方が超微妙!!!というか話が進まねぇ――――!!!!! 紅蓮達が昌浩とニアミス致しました。え?これって紅昌??なんか話の展開的にそんな雰囲気が・・・・・;;私としてはNOCPで書いているつもりなんですけど、どうしてだろ?(汗) てか、戦闘シーン難っ!!もう書きたくないよう〜(泣)これ以上人数が増えての戦闘シーンなんて、正直言って書きたくないです;;あ〜、でもこのあとそんなシーンを書く予定だしなぁ・・・・・。 昌浩いい加減に喋れ。(いや、だから無理なんだって。設定上) 何とかもう二・三話中には昌浩が会話できる状況に持っていきたい。できるかな?こればかりは私の文章の纏め方次第です・・・・・・・・・・・。 感想などお聞かせください→掲示板 2006/8/14 |