刻々と近づいているその時。 目的の場所は既に定まっている。 そして己が何をしたいのかも・・・・・・・・。 カラカラと歯車は音を立てて廻る。 巡る運命のその先は―――――――? |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜拾参〜 |
晴明達から無事に逃げおおせた宮毘羅達は、(妨害もあったが)順調に封じを壊していき、残された封じの珠は一つとなった。 「いよいよ残りは一つか・・・・・・・・」 宮毘羅(くびら)は軽く息を吐きつつ、ポツリと呟く。 「ねぇ、ねぇ!宮毘羅。全部の封じを解いたら、あの子は元のところへ帰してあげるんでしょ?」 「っ?!・・・・・安底羅(あんてら)か・・・・いきなり飛びついてくるな」 宮毘羅が腰付近に強い衝撃を感じ視線を下へと向けると、肩の辺りまで伸びた白い髪が見え、ついでこちらを見上げてくる大きな紅い瞳が視界へと入る。外見は波夷羅(はいら)よりも二・三歳下なので、抱きついてくると腰の辺りにしか手が伸びないのである。 宮毘羅はその幼き同胞の頭に手を乗せ、宥めるように数度撫でつつ注意の言葉を漏らした。 それを聞いた安底羅は、頬を膨らませて抗議の声を上げる。 「え〜、けちぃ!・・・・それより、質問!答えてよ」 「・・・・・・・・・直ぐには返してやれない。あの子どもには封じを破ってもらうこと以外でも、大事な用があるからな・・・・・・・」 「封じを破る以外にも?どんな用事??」 「用があるのは私ではないのだがな・・・・・・・・・・・」 「??」 「何でもない。・・・・それより、随分あの子どもが気に入ったようだな?安底羅」 「うん!だって魂の波動って言うのかな?それがとっても暖かくって気持ちいの!宮毘羅が術を掛けてるからお話とかできないけど、傍にいると安心?とにかく居心地がいいの!!こんなの瑠璃様以外に初めてかも!!!」 ぱっと顔を輝かせ、懸命に言葉を紡ぐ安底羅を宮毘羅は微笑ましそうに見つめ、ついで目を閉じた。 何故かはよくわからないが、女性陣はあの子どもがいたく気に入ったようだった。 割と子どもが好きな迷企羅(めきら)や伐折羅(ばさら)あたりも、何かと構ってやっているところを見ると彼らも同じだろう。 最近封じから解かれた珊底羅(さんてら)・招杜羅(しょうとら)も気に入ってるとまでは言わないが、彼の体調を気にしたりなど注意は向けているようだ。(ちなみに、安底羅・額爾羅(あにら)・真達羅(しんだら)は女性陣に含まれる) 元々この面子は人間を好いていたのだ、一部の愚かな人間の行いだけでその他の人間―――特に子どもを嫌いになるはずもなく、滅多に直接関われない分逆にとても喜ばしそうだ。 女性陣なんか子どもがほとんど反応を返さずとも、偶に起こす僅かな仕草に頬を染めているあたり、母性本能?とやらが働いているのかもしれない。(神である彼女らにそのようなものがあるのかは知らないが・・・・) そんな微笑ましい光景を目の当たりにして、どうしてこれ以上子どもを縛っておくような言葉を紡げようか?問われるこちらとしては、大変答え難い。 気鬱な宮毘羅は誰にも気づかれないよう、こっそりと溜息を吐いた。 早く主である瑠璃様を助け出し、この子どもも解放してあげたい・・・・・・。 未だ果たせぬ願いに、宮毘羅はもう一度息を吐いた。 「それで?最後の封じはいつ解きに行くの?宮毘羅」 腰まで伸びた深緑の髪をみつ編みにしている女性・・・・・(年の頃は勾陳位か)が緋色の瞳を鋭利に輝かせて問い掛けてくる。 その瞳は『この子に無理でもさせてみなさい!唯では済まさないわよ!!』という恐ろしく気概の篭った科白を訴えてくる。 その他の女性陣も同様な意味合いを込めた視線を送ってくる。 (・・・・それは脅しと言わないか?額爾羅;;因達羅に安底羅に真達羅も・・・・波夷羅(はいら)、お前もかっ?!) 緋色の瞳(及びその他無数に突き刺さる視線)から僅かに視線を逸らし、宮毘羅は内心そう呟いた。 他者を纏める長という立場の者は、時として理不尽な立場をも耐えねばならない。 宮毘羅は背中を伝い落ちる冷や汗を意識の外へ追いやりつつ、「明朝には・・・・・・」とだけ答えた。 どうにか納得のいく回答を返せたようで、それまで針のような刺々しい視線は緩められる。 命拾いをした。 宮毘羅は表裏なくそう思った。 彼女達にかなう者など仲間内では瑠璃様以外にいないだろう。 宮毘羅と女性陣のやり取りを静観していた残りの男性陣はそう感想を抱き、遠くへと視線を飛ばした。 触らぬ(女)神に祟りなし。 つまらぬ考えが頭を過ぎった。 そうして目的達成まであと僅かな彼らのほのぼのとした遣り取りは続くのであった――――――。 * * * 「残った珠の封じはあと一つか・・・・・・・・・・・」 安倍低の一角でその呟きは漏らされた。 「まさか同時期に各所から珠を持ち去り、後々ゆっくりと封じ破りを行うとは考えていなかった」 「お蔭で一箇所を残してすべての封じが破られてしまったな」 「・・・・・だが、これで都合がいい。やつらの目的が絞られるのだから」 勾陳・六合・物の怪の順で言葉が交わされる。 「行くか。今度こそ必ず取り返してやる」 「あぁ、もう後には引けないな」 「昌浩の体調が気になる。無理をさせられていないといいのだが・・・・・・・・・」 「何を言っている、勾!あんな厄介な封印を十一個も破らされている時点で、もうすでにに無理をさせられているだろーがっ!!!」 勾陳の昌浩の身をを案じる科白に、物の怪はくわりと歯を剥き出して抗議の声をを上げる。 物の怪の意見も尤もなので、勾陳は「そうだな・・・・」と相槌を打って自分の言ったことを訂正する。 「確かに。時間はそこそこに空けられているようだが、恐らくはほとんど休息など取れていないだろう」 「晴明も、昌浩の様子がおかしかったと言っていたしな・・・・・・」 「あぁ、朱雀も言っていたな。助けようとした時に、昌浩は反応らしい反応も返さなかったらしいな。きっと術か何かを掛けられているのかもしれないな」 「長時間術を掛けられていては、身体的にも精神的にもかなり辛いはずだ。早く助け出してやらないとな」 「そうだな、騰蛇の言うとおりだ。あまり悠長には構えていられないな、昌浩を思えば」 「一刻も早く助け出そう」 三人は頷き合うと、亥の方角―――最後の珠が奉じられている祠へと向かった。 早々に出て行った闘将三人を晴明は見送り、一息吐くと自分も立ち上がった。 「さて、紅蓮達はもうあちらへと向かったようじゃ、わしらも向かうぞ」 晴明は背後を振り返る。 そこには天空と太裳を除いた他の十二神将が控えていた。 無論、眉間に思いっきり皺を寄せた青龍もいる。 晴明に説得(と書いて泣き落としと読む)されてしまい、不本意ながらも渋々と昌浩奪還要員に組み込まれてしまった。 お蔭で彼を取り巻く空気は常にもまして険悪度が三割り増しで悪くなっている。 太陰なんかはとても居心地悪そうに身じろぎをしている。 晴明はそんな彼らを見て苦笑を漏らしつつ、中庭へと足を向けた。 ここから白虎の風で祠まで運んで貰うのだ。 目的は異なれど、目指す場所は同じ。 目的地は亥の方角、最後の珠が奉られている祠――――――。 * * * ヒュオッ! 風を切る音が耳元を通り過ぎていく。 鬱蒼と生い茂る森の中、背の高い木立の合間をぬって影は疾走していく。 淡い光源の下、銀色の毛並みが冴々と照らし出される。 休む間もなく伸縮を繰り返すしなやかな筋肉。 鮮やかに煌く金眼はひたと前方を見据え、他所へと逸らされることはない。 銀色の影の目的地は玉敷の都。 銀色の影はくつりと笑みを零した。 あと少し。 あと少しでこの眼に捉えることができる。 「待っておれ、愛しき我が同胞よ――――」 疾駆する影はその速度を更に上げる。 これから起こる出来事を予兆するかのように、月は緋色に燃え上がっていた―――――――。 ![]() ![]() ※言い訳 もう、かなり話をすっ飛ばしました。昌浩が全く出てこないことに作者自身が痺れを切らしてしまいました。きっと昌浩は次のお話で喋ります。皆さん、長らくお待たせ致しましたぁ〜!! 主人公がほとんど出ないなんてありえないですよねぇ・・・・自分も書いていてまさかこんな展開になるとは思ってもいませんでした。(ヲイヲイ;;) で、以前NOCPと言っていましたが訂正致します。『昌浩総受け』で・・・・・・。 え?駄目ですか??もう私は主人公至上主義派なので、昌浩が愛でられていられればそれでいいんです。(とうとう言っちゃったよ;)なので、オリキャラであろうと昌浩は可愛がられます!!(←ここ主張) ・・・・・・・はぁ、いつになったらもう一つの十二神将編は終わるんだろ?まぁ、あと二・三話位だと思いたいです。(実際書いてみると伸びることの方が多いので何とも言えない) まぁ、途中ですけど言っておきます。今回のお話、昌浩はとっても虐められます。え?今も十分虐められてるだろうって?まぁ、それもそうですけど・・・・・・。 かなり長編になる予定なんで、皆さんお付き合いの程よろしくお願いします。 感想などお聞かせください→掲示板 2006/8/26 |