知らなかった真実。









気づいた頃にはもう遅い。









阻むために広げた腕を擦り抜けて









魔の手は確実に標的に伸びる。









あぁ、私が愚かだったのです―――――――。
















沈滞の消光を呼び覚ませ〜拾碌〜
















未だ封じられているままの主を救い出すべく、宮毘羅(くびら)と毘羯羅(びから)は都のほぼ中心に近い場所にある泉へと来ていた。


「・・・・・ここだ。ここに瑠璃様は封じられている」


さほど大きくもない泉に宮毘羅は視線を落とす。
―――と、それまで口を閉ざしていた毘羯羅が徐に口を開いた。


「宮毘羅。先程も言ったが、何を焦っているんだい?いくら長年封じ込まれていたからって、ここまで早急な動きをする必要性を感じられないと思うんだけど・・・・・・?」


目覚めた直後に目にした子ども。
その子どもについて道すがら説明を受けた毘羯羅は、それでも納得できずに眉を顰めた。
いくら力を温存する為と言えど、人の子を用いるなどあまりにも宮毘羅らしくない。
少しだけ休息して削られてしまった力を取り戻せばいいだけのことである。
こんな短期間で全てを成すことに対する重要性がない。


「・・・・・・毘羯羅、その事については瑠璃様を助け出した後に話す。今は瑠璃様救出に専念してくれ」

「・・・・・わかったよ。後でちゃんと説明してくれるなら、それでいい・・・・」

「すまない」


納得せずとも引き下がった毘羯羅に、宮毘羅は短く謝罪を述べた。

そうした後に太刀を取り出すと、宮毘羅はそれを泉へと振るい落とした。
轟音と共に、泉が真っ二つに割れる。
さして深くもない泉のそこが露となる。
泉の底の中心に、小振りな祠がぽつんと置かれていた。


「あれが・・・・そうなの?」

「あぁ、間違いないだろう。それに、瑠璃様の気配も微弱ながらに感じ取ることができる」


宮毘羅はそう言うと泉の底へと降り立ち、祠から例の珠を取り出してまた陸へと上った。

ザ、ザアァァァッ!!!

宮毘羅が陸へと戻ると同時に、二つに割れていた泉の水が元に戻る。
後には何の変化もない泉の姿がそこにあった。


「よし。あとはこの珠に私とお前の力をありったけ注げば、瑠璃様は封じより解き放たれる」

「これに力を注げばいいんだね?」

「そうだ。やるぞ」

「りょーかいっ!」


二人は珠に手を乗せると、同時に同時に力を注いだ。


「―――くっ!流石は神である瑠璃様を封じるだけのことはある。力を注いでも満たされる感じがしないな・・・・・・」

「うわぁー、まだ目覚めて間もないのになぁ〜。このままじゃ力を全部出し切って干乾びちゃうよ」


しばらくの間、珠へと力を注ぎ続けていた宮毘羅と毘羯羅は、それぞれ思ったことを口にした。
珠の内に込められた力が満たされる気配がない。

宮毘羅は諦めたように溜息を一つ吐くと、懐から一つの珠を取り出した。
一見、何の変哲もない透明な珠に見える。
しかし、それを見た毘羯羅は僅かに目を瞠った。


「瑠璃様の力が感じる・・・・・・って、え?何で宮毘羅がそんな物持ってるの?!」

「無駄に口を動かしている暇があったら、珠に力を注ぐことに集中しろ。このことも全部後で纏めて答える」


驚きで言い募ってくる毘羯羅に、宮毘羅は煩わしそうに答えた。

取り出した珠を主の封じられている珠へと近づけた。
珠と珠が触れ合った瞬間。
目を焼くほどの強い光が爆発した。


その瞬間、都を覆っていた結界の一つが消失した――――――。


光が弾けると共に、紫がかった長い銀髪を結い上げ菩薩のような衣装を纏った(外見年齢が勾陳より少し上位の)人物が姿を現した。
閉じられていた瞼が持ち上がり、その名と同じ瑠璃色の瞳が姿を現す。

薬師瑠璃光如来。

それが彼女の名前である。


「・・・・・・・・・・ここは・・・・・・・・・」

「!お迎えに上がりました、瑠璃様。長年、それが叶わなかったことをお許し下さい」

「・・・・・・・・」


目覚めた主に、宮毘羅と毘羯羅は膝を着いた。
瑠璃はそんな二人に改めて視線を送る。


「貴方達が私の封じを破ったのですか?宮毘羅に・・・・・毘羯羅」

「はい。他の者達も全員無事にございます」

「そう、よかった・・・・・・。他の皆の姿が見えないのだけど、どうしたの?」

「所用にて、少々ここに姿を見せることが叶わなかったのです。彼らが今この場に居合わせることができないのを、お咎めなさらないでください」

「きっと大事な用なのね?だったらいいわ。・・・・・・・・・ところで宮毘羅、一つ私の質問に答えてくれるかしら?」


ぐるりと周囲を見回して宮毘羅と毘羯羅しかいないことを確認した瑠璃は、不思議そうに宮毘羅へ問いかけ、その訳を聞いた瑠璃は一つ頷いて納得する。
その後、間を空けて訝しげな表情で改めて問うてくる。


「はい。私の答えられるものでしたら、お答え致します」

「ほんの僅かだけど、私の力が戻っている・・・・・・・これは、この力はどうしたの?」

「・・・・・・・・・・・」

「答えなさい、宮毘羅」

「・・・・・瑠璃様の、加護を受けていた子どもから・・・・・・・」

「奪ったっと言うのっ?!あの子から??いけない・・・・宮毘羅、直ぐにでもその子の元へ私を案内して!!」


急に落ち着きをなくした主に、宮毘羅と毘羯羅は共に怪訝そうな顔をした。


「一体どうなされたのですか?瑠璃様」

「私が見境もなく、人に加護を与えるはずがないでしょう!然るべき理由があればこそ与えているの。急がないとあいつに気づかれてしまうっ!!」

「あいつ・・・・?」

「封じ込まれていたから確かな時間感覚はないけれど、以前あの子に手を出そうとしていた輩がいたから、手を出せないように加護を与えたのよ」

「!そんな理由があったのですか・・・・・・・・・・申し訳ございません。理由を知らなかったとはいえ、その子どもの加護を強制的に奪い取ってしまいました」

「・・・・・・・・・。今はそんなことを言っている場合ではないわ。早速その子の元へ案内してくれるわね?宮毘羅」

「はっ!御意に」


宮毘羅はすっと立ち上がると、案内すべく動き出した。




風の切る音が耳元で煩く通り過ぎていく。

宮毘羅は焦りを感じていた。
主の言っていた、子どもに加護を与えた理由。
もし、自分の考えていることが当たっていたとすれば、急がなければいけない。

やや表情が硬い宮毘羅に気づいた毘羯羅は、訝しげに問い掛けた。


「宮毘羅、焦りが酷くなっている・・・・・・。本当にどうしたの?いい加減、その理由を話してくれないかい??」

「・・・・・・もしかしたら、もう手遅れになっているかもしれない・・・・・・・・」

「え?何が・・・・・・」

「瑠璃様は先程言いましたよね?子どもを狙う輩がいると・・・・・・・・。私の予想が当たっているのだとすれば、子どもは既に目をつけられています」

「・・・・・・どうして、そんなことがわかるのかしら?宮毘羅」


断言する宮毘羅を、瑠璃は静かに問い詰める。
事態は思っていたよりも、悪い方向へと向かっているのかもしれない・・・・。


「・・・・・私が、それと思しき輩と数度、会話を交わしたことがあります・・・・・・・」

「!それは本当なのっ?!宮毘羅!!!」

「はい・・・・・・。何せ、私が封じから外へ出れるように手配したのがその者だと言って過言ではないのですから・・・・・・恐らく」

「ちょっ・・・・・ちょっと待って宮毘羅!何でそいつが態々宮毘羅を外に出す手引きをする必要があるのさ?!」


話があまりにも飛躍しているので、毘羯羅が慌てて制止をかける。

全然話が繋がらない。
子どもを狙うことと、宮毘羅を封じから開放することのどこに関連性が見出せようか?
毘羯羅の疑問に答えたのは、もちろん宮毘羅だった。

交換条件だったのだ・・・・・・・・とぽつりと呟いた。


「私を外へと出す代わりの・・・・・・・」

「見損なったよ宮毘羅!いくら封じから出たいがためだって、子どもを変わりに差し出すなんてっ!!!」

「なっ!誰がそんなことするか!!私とて外へ出るための代償が子どもを差し出すことだったら、そのような交換条件を飲むわけがないだろう?!」

「二人ともお止めなさい。―――では、どのような交換条件だったのですか?」


声を荒げる二人を諌め、瑠璃は努めて冷静に質問する。


「出された条件は三つ。子どもの加護を奪い取ること。十二夜叉大将の封じは子どもに解かせること。そして瑠璃様の封じを解くまで子どもを共に行動させることです。内容が内容なだけに疑問が生じましたが、一先ず命の危険はないものと判断しましたのでその条件を飲みました。いざとなれば他の者達もおりますので、安全は図れるかと・・・・・・・・」


宮毘羅は訥々とそう語った。


「決まりね。条件の内容からしても、あの子を狙ってのものだわ。急がないとあの子が危険だわ・・・・・・・」

「今は子どもに因達羅をつけております。余程のことがない限りは大丈夫かと・・・・・・・・・」

「ならばよいのですけど・・・・・・・・」


そこまで話すと会話を打ち切り、三人はできる限り速い速度で疾駆した。


宮毘羅は子どもの無事を願う。

が、縋るような視線を因達羅が向けてきたことによって、その願いが叶わなかったことを思い知らされたのであった。









嘲笑う声が、遠くで響いた―――――――。













                        

※言い訳
あ〜、執筆が進まない。
昌浩がいなくなった途端に、書く気が失せてしまった・・・・・・・。もう、末期ですかね?
これで、宮毘羅が昌浩に無理を強いていた理由が明らかとなりました。宮毘羅本人だってかなり不本意だったんですよ?とフォローしてみたり。
で、もう一つの十二神将編は残り一話となります。(伸びて二話)
その後に閑話を挟んで新章が始まるわけなのですが、そこで漸く紅蓮達の前に昌浩が敵として現れるわけですよ!!
今までのお話はあくまで伏線!序幕ですよ!!(なげーなヲイ;;)
やっとアンケートで徴収した『昌浩が敵にっ?!目指せ奪還!!』的な内容になるわけです。
いや〜、本当に長いお話になりそうです。

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2006/9/2