夢の中。









どこか深い奥底で必死に叫ぶ声が聞こえる。









声の主は誰?









眼を凝らしても、その姿を捉えることはない――――――――。
















沈滞の消光を呼び覚ませ〜弐拾参〜















暗闇の中、ただ泣き声だけが響き渡る。

独り。寂しい・・・・。

どうして、置いていった?


――ちゃんと迎えに来てくれた。


絡みつく禍き呪縛。

苦しい。辛いっ。

何のためにこの苦しみを感じている?


――全ては大事なあの子のため。


悪意の篭った言葉。

悲しい。悔しい。

何を、お前たちは知っていると言う?


――それでも、心配してくれた。


腹部を突き抜けた衝撃。

熱い。痛い。

何故、そんな冷たい眼を向けてくる?


――違う、それが本意じゃない。


残忍な笑みに踊る炎。

悲鳴。慟哭。

握り締めた物から伝わった感触は?


――これしか、方法がなかった。


絶対零度の拒絶の視線。

悲哀。消失。

遠くで聞こえる崩落の音は?


――でも、戻ってきてくれた。










憎め。


――どうして?


憎め。己を取り巻く人々を。


――どうして?皆優しいのに。


人の世にしがらみなど思い抱くな。


――好きなのに。


忘れろ。


――嫌だ、忘れたくないっ!!


温かな記憶など、有りはしない。


――じゃあ、感じたはずの嬉しさや喜びは?


疎め。


――嫌いになんて、なれない。


その内に混沌を飼っている生き物を。


――皆が皆、そうであるわけじゃない。


お前の居場所は、我の隣だっ!


――紅蓮、じい様、彰子・・・・・・・・。









惑うな!お前の名は、『煌』だっ!!!












「―――っ!」


がばりっ!と勢いよく起き上がる。

はっ、はっ・・・と忙しない呼吸音が空間に響く。
滝のように汗が流れ落ちる。
汗で張り付いた前髪を鬱陶しげに払いのけながら、早鐘を打つ鼓動が落ち着くのを待つ。


「――何か、嫌な夢でも見たのか?煌(こう)」


ふいに聞こえてきた声にそちらを見やると、人型をとった九尾が静かに近づいてきた。
細長く綺麗に整った指先が、優しく煌の前髪をかき上げる。
九尾のそんな動作に、煌は詰めていた息を緩やかに吐いた。


「久嶺(くりょう)・・・・・・・わかんない。最初の方は、覚えてるんだけど・・・・・・・途中からは覚えてない」

「”いつもの”夢か?」

「うん・・・・・。なんでだろう?なんで、あんなに寂しい夢しか見れないんだろ・・・・・・・・」


久嶺――九尾は煌の言葉にぴくりと眉を動かした。
ぼぅっと天上を見上げていた煌は、そんな九尾の反応に気づくことはなかった。


「寂しい、夢か?」

「・・・・そうだね。痛みとか、苦しさとかしか感じない夢だけど・・・・・・・でも、”寂しい”のかな?おかしいよね?いつも思い出す時には怒りとか憎しみしか感じないのに・・・・・・・・・・。夢の時だけは、どんな感情よりも寂しさが強く感じられるんだ」

「そうか・・・・・・・」


九尾はそれ以上は言葉を紡がず、ただ煌の髪を梳く。

その色は黒に限りなく近い茶色。銀色ではなく、黒に近い茶色・・・・・・・・。

煌はその髪の色を見て、不機嫌そうに眼を眇めた。


「・・・・・・・髪の色、戻った・・・・・・・・」

「?あぁ・・・仕方なかろうて。大分、我がくれてやった力が乱れておるぞ?そんな状態では色の形成も崩れてしまうのは自明の理だ」

「う〜。俺は久嶺と同じ髪の色がいいの!」

「ふっ、もう一眠りすれば乱れも落ち着くはずだ・・・・・・・傍にいてやる。寝よ」

「・・・・・・・・まぁ、久嶺がいてくれるならいっか。じゃあ、もう一眠りするね・・・・・おやすみ」

「・・・・・・あぁ、おやすみ」


煌は再び眼を閉じた。
しばらくすると、静かな寝息が九尾の耳へと届いた。

眠る子どもの顔を見下ろしつつ、九尾は金眼に剣呑な光を浮かべて細める。








「―――やはり、憂いの本は断たねばならないか・・・・・・・・」








その口元に浮かぶは凍えるまでの冷笑。












狂った歯車は再びゆっくりと動き出す―――――――。

















                         

※言い訳
あ〜、テスト三日前でヤバイのになぁ・・・・と呟きつつ更新しました;;何やってるんでしょうね?この阿呆は。
煌の正体、もしかしたらお気づきになった方もいるんではないでしょうかね?(や、これでわからないわけがないだろ?!)はい、あの子です。九尾さん、夢の中まで干渉。毎晩枕元に立ってるんでしょうかね?(嫌だなぁ、それ;;)しかも何やら画策している模様・・・・。

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2006/9/18