追い求めるは愛しき子ども。









例え何年経とうともその想いは翳らない。









幾度手を撥ね退けられようとも、









拒絶の視線を受けようとも、









必ず取り返してみせよう―――――――――。















沈滞の消光を呼び覚ませ〜参拾捌〜
















安倍邸。

晴明の部屋では、その部屋の主と数名の十二神将、そして四名の十二夜叉大将が話し合いをしていた。


「ふむ。・・・・・では、十二夜叉大将の者達もこの度の件は協力を惜しまないと?」

「はい。晴明様と我等の共通の目的は昌浩様を取り返すこと。九尾の下にいる煌と呼ばれている彼が昌浩様なら、我等も共に動き微力ながら奪還の手伝いをしたい所存です」


それは確かかと目で問うてくる晴明に、因達羅(いんだら)はそう告げて肯定した。

瑠璃の下を去った後、早速迷企羅(めきら)と波夷羅(はいら)のもとへと行き事の次第を説明した。
説明を聞き終えた二人は、そういうことならばと快く首を縦に振ってくれた。
そして朝が訪れるのを待ってから、安倍邸へと向かったのである。

邸を辞してから半日とも経たずに再び訪れた彼らを、邸の主は快く迎え入れてくれた。
因達羅は早速主の意見を告げ、そしてこれ以降晴明達と行動を共にするように仰せつかったことも話した。
そして今に至る。


「ですので、行動を共にする間、こちらの邸への逗留の許可を頂きたいと思います」

「わかった、許可しよう」

「ありがとうございます」


晴明は二言で返事を返す。
因達羅達はそれの言葉を聞いて、神妙に頭を下げた。

その際、あっさりと邸の逗留を許可した晴明を不満そうに睥睨する青龍の様子を見ることがなかったのは、幸いだと言えよう。


「昌浩捜索の主だった動きをするのは紅蓮達じゃ。詳細はあ奴らから聞く方が良いだろう。気配はわかるな?」

「はい」


覚えていないはずがない。
何せ昌浩を連れまわす自分達から、取り返そうと一番必死だったのは彼だ。


「・・・・・・・では、私も共に行こう。騰蛇と六合は昌浩の部屋にいるだろうからな。今後の動きについては私も共に動くことになるはずだからな」


ふいに申し出たのは勾陳。
晴明の部屋から辞そうと立ち上がった夜叉大将達へと、背を預けていた柱から離れて歩み寄った。


「ご案内、お願いできますか?勾陳殿」

「殿はいらない。その代わり、こちらも呼び捨てにさせて貰おう」

「はい、わかりました。あの・・・これからよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそよろしく」


彼らは互いに笑みを交わした。









「―――正直言って人手が増えて助かっている」


紅蓮達のもとへと行く道すがら、勾陳はそう言葉を漏らした。


「何でや?姐さんらかて俺らと同じ十二人もおるやないか。確かに人を探すのに多いとは言えない人数やけど、場所かてこの都のどこかと限定できる分、前よかは随分と探しやすくなったんとちゃうんか?」

「いや・・・・我等十二神将も十二人いるとはいえ、その半数はほとんど動くことができない。いくら都のどこかにいるとわかっても、半数で探すにはきついからな。・・・・・そういうところではお前達の方が機動力はありそうだな」


何せ動物を使役することができるのだ、その数とて馬鹿にならないだろう。

勾陳の考えが読めた夜叉大将の面々は、途端に申し訳なさそうな顔を作った。
そんな彼らを見て、勾陳は不思議そうに首を傾げた。


「・・・・・どうかしたのか?」

「あ〜、肝心なことを言い忘れてた・・・・。今回の捜索にあたって私達、動物を使役することはできないの」

「何故?」

「さっき、私達の仲間の内二人が昌浩に遭ったことは話したわよね?その時に動物達に見張らせるのやめろって、じゃないと殺しちゃうからって言われたから流石に無理させられなくて・・・・・・・」

「ですから、動物達を動かして相手の動向を探ることはできません。できたとしても、動物達に目撃情報を貰うくらいです。後は我々自身が動くしかありません」

「なるほど。しかし我らがお前達に動物を使役することができるとわかったのは昨日の話だ。最初からお前達の動物を使役できる能力を当てにしていたわけではないので、そこのところは問題ないだろう」


だからそう申し訳なさそうな顔をしてくれるな。

別段、慰めでもなくただ淡々と勾陳は言葉を紡いだ。
因達羅達は勾陳のその言葉を聞いて、ほっと息を吐いて肩の力を抜いた。


そんな遣り取りをしてる間に、彼らは紅蓮達がいる昌浩の部屋へとやって来ていた。


「騰蛇・・・・・・」

「勾か。・・・・・後ろの奴らはどうしたんだ?」

「喜べ。人手が増えた」

「・・・・・・・話が見えないのだが;;」


そこで勾陳はつい先ほど晴明の部屋で交わされた会話を、物の怪と六合に話して聞かせた。


「―――で、こいつらも一緒に行動をとることになったと。だが、俺達と行動を一緒にとっていたら、いくら人員が多くなろうとも結局変わらなくないか?」

「それについては大丈夫です。他の夜叉大将の者達も動いていますから」

「だそうだ。大体の事情は把握したか?」

「あぁ。理解した」


勾陳の質問に物の怪は返答を返す。
その隣で六合も頷いた。


「よし、では今後どのように動くか話し合おう」


そして彼らは今後の予定について話し合うことにした。








※以下は会話文のみになります。誰がどの科白を言っているのか、頑張ってお読み取り下さい。







「まずは潜伏場所だな。これについてはお前達の方でも何も情報を掴めていないのだな?」

「はい。全くと言っていいほど何も掴めていません」

「でも、異邦の妖共に見張りを付けていたんじゃなかったのか?実際見張りを付けるなと忠告を受けたんだろう?」

「そうなんだけどねぇ〜。何故か巻かれちゃうのよ。といっても、それはこの都に妖達が入ってからの話なんだけどね。それまではちゃんと足取りとかも掴めてたのよ?」

「余程足取りを捕まえさせたくはなかったのだろう」

「本当に腹が立つわ!それだとそれまでの行動は別に知られてもいいから、私達を警戒しなかったみたいな言い様になるでしょ?」

「そやそや!って言っても俺と波夷羅はあんま情報収集の方では役に立たんかったけどな」

「何故だ?」

「夜叉大将の奴はそれぞれ十二支の何れかの動物を使役することができる。俺は使役することができる動物が虎やから、生育地とかの条件もあってあんまり役には立たなかったんや」

「ほぅ?では、波夷羅が使役できる動物は何なんだ?」

「羊・・・・・・。この辺りには、ほとんどいない・・・・・・・・」

「確かに、虎とか羊はそうそういないからな・・・・。じゃあ、動物を使役することができるって言っても、場所や条件で集められる情報の量に差が出るわけだな」

「まっ!そういうことね。というわけだから、まずは妖達の潜伏場所の絞込みをしないといけないわね」

「そうですね、偶然の遭遇を待っていてはいつまでたっても事態は進展しないでしょうし・・・・」

「あと、奴らの目的についても気になる」

「とある人物達の抹消・・・・・・その人物達が誰であるかわからないと、護りようがない」

「達ってことは複数?となると人数が多い分、一人一人の護りも薄くなっちゃうわね・・・・・・・」

「あ〜、それの捜索もあったか」

「だが、それは奴らを追っていれば自ずと知れると思うぞ?」

「そうなると、後手に回る可能性、大きい・・・・・・・」

「仕方ないやろ。俺らは奴さんの目的を知らんのやから」

「それよりも、昌浩を取り返す方が難しいと思うのだが・・・・・」

「記憶が、ないのでしたね?」

「あぁ、少なくとも俺達三人のはな」

「しかも大分性格が異なっていた。操られているのかどうかはわからないが、そう易々と言葉で説得できるような様子ではなかったな」

「そうなの?」

「あぁ・・・お前達は知らないだろうが、それなりに付き合いがある者にとってはあれは異なりすぎだと感じるだろう。我々も初めは気づくことができなかったしな」

「それは髪と目の色が違っていたというのも大きな要因だったと思うがな」

「まぁ、俺らみたいによっぽど親しいものでない限り、そうそうわからないくらいには色々と変化してたのは確かだ」

「そんなに、お変わりに・・・・・・?」

「まずお前らじゃ気づけない。昌浩に遭ったという二人も気づけなかったんだろう?」

「えぇ、私達が今の昌浩様の特徴を話して、それで初めて気づいたそうですから・・・・・・」

「ま、そういうわけだ」

「――じゃあ、どないな方法で坊主を取り返そうって言うんや?」

「問題はそこだな。昌浩が記憶を取り戻してくれるのが一番手っ取り早いのだろうが、記憶という不確かなものなど本人にしろ他人にしろそう手を出すことはできないだろうしな」

「術などを使って記憶を封じているのであれば、その術を掛けた本人のみがどうにかできるだろうが・・・・・」

「どっちみち難しいわね〜。後は?何か方法はないの??」

「あれを説得するのは・・・・・骨が折れるなんて生易しい言葉では聞かないだろうな」

「あぁ、あそこまで変わられるとな・・・・・・」

「そうだな・・・・・・・・」

「なに?どういうこと??」

「多分、会ってみればわかると思う・・・・・・」

「「「「?」」」」

「・・・・・多少は心の準備をしていた方がいいと、勧めておく」

「何せ今の昌浩には可愛げのかの字もないからな」

「(一体どんな性格になっちゃったのよ?!)・・・・・取り敢えず、わかったわ」

「けど、そないな難儀な性格になってしもたと言うんやったら、どう取り戻すっちゅうんや?本人が抵抗することも考慮せなあかんやろ?」

「無論、強制送還だ」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

「後のことは晴明が何とかしてくれるだろうと高を括っている」

「や、それは色々と不味いんとちゃいますの?(汗)」

「そうですね・・・・・・今は記憶を失くされているということですから、余計に反感を煽ってしまうのではないのでしょうか・・・・・・・・」

「甘い。そんな温い真似をしても、昌浩は一向に帰ってはこないだろう」

「記憶がなくても頑固そうだったからなぁ・・・・・あっち側が己の居場所だと思っている内は間違いなく帰ってこないだろうな」

「な、なんか妙に説得力があるわね・・・・・・」

「真、不思議・・・・・・」

「ま、そういうわけだ。とにかく我らがすることは昌浩の居場所を見つけることと連れ戻すことだ。九尾の企みを潰すのはそのついでだな」

「つ、ついでで九尾の企みを潰すって言うんか?」

「あぁ、ついでだ」

「きっぱり言いますね・・・・・。まぁ、確かに我々の目的は昌浩様を取り戻すところにあるのは確かですけど」

「そういうことだ。まぁ、これからの方針はこれくらいでいいだろう。さて一息ついたな・・・・迷企羅、ちょっと手合わせに付き合え」

「はぁ?!なんで俺が姐さんの相手務めなあかんのや!」

「つべこべ言うな。ほら、さっさと庭へ出ろ」

「嫌やっ!姐さん手加減なんかしてくれへんやろ?!」

「何を当たり前なことを言っている。いざという時に本気を出すことができなかったら話にならないだろう?」

「嫌やぁ〜!死ぬっ!生傷が増えるぅ〜!!」

「死なせはしないさ。まぁ、生傷が増えるかどうかはお前次第だな」

「あ、あ〜。誰でもええから助けてくれっ!!」

「頑張れ〜☆」

「勾陳、無理だけはお控えくださいね?」

「承知している」

「迷企羅、頑丈・・・・死なない。故に問題無し」

「問題大有りやろっ?!」

「あ〜・・・・・頑張れよ?」

「恐らくだが、無理はさせないだろうと思う・・・・・・・・」

「ひ、酷っ!皆して俺を見捨てるんかぁ〜〜〜・・・・・・」(←段々声が遠ざかっていく)








会話文のみ終了。







こうして迷企羅は勾陳と手合わせに外に連れて行かれた。

そして彼が生傷を負うことはなかったかというと・・・・・・・・・・・無論、負うこととなった。(合掌)















                        

※言い訳
そしてまた紅蓮達サイドにお話が移ります。あ〜、忙しないなぁ・・・・・・。
今回、初の会話文のみの文章を入れてみました。どうだったでしょうか?私としては結構楽しんで書いていました。(一人だけで満足?)
あっ!なんで紅蓮達が異界にいないで昌浩の部屋にいるのかというと、あれです、昌浩の部屋が作戦会議室になっているからです。(ぇ)別に異界でもいいじゃん!なんて言わないでください。昌浩の部屋で日々昌浩の無事を祈るのと奪還の意思を固めるのが彼らの日課となっているのです。(わぁ〜、捏造しまくり!)いいですよね?我がサイトは昌浩至上主義で運営しているのですから♪一部の例外を除いては、昌浩は全員に大なり小なり愛されているのです。ん〜、で。紅蓮がなんで昌浩がいないのにいまだに物の怪の姿をとり続けるのかの説明に入ろうかと思います。紅蓮は夜警の時を除けば、ほとんど物の怪の姿で生活を送っています。これはもう癖というか、板について離れないと言った方が正しいかもしれません。太陰や吉昌をはじめとするほとんどの者が元の姿より、こっちの姿の方が精神的に緊張を強いられないということがなんとなくわかったので、この姿でいます。と、まぁ・・・説明はこれくらいでいいでしょうかね。

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2006/10/21