それが当たり前だと思っていた。









それに疑問を抱くことも無かった。









疑問を抱いてしまったのは、知ってしまったからだろうか?









そんなことでと内心嗤いつつ、けれど燻る思考。









きっと、今更なのだろう―――――――――。

















沈滞の消光を呼び覚ませ拾〜















「こいつら皆、久嶺(くりょう)が抹消したいって思っている奴らなの?」


水面に移る様々な人達を見、煌(こう)はぽつりと呟いた。
次々と移り変わる映像を目で追いつつも、思考は別のところにあった。


「そうだ。こ奴ら全員、我が邪魔に思っている人間達だ・・・・・・」

「ぜん、いん・・・・・・・」


現れては消え行く映像の中、つい最近顔を会わせたことのある奴らの顔があった。もちろん知らない顔も・・・・・・・・・。
これらの人物達に一体どのような繋がりがあるのかは知らないが、九尾はこの者達を目障りに思っているから消す為に態々海を越えてきた。
そして自分はその手伝いを、今目の前に映し出されていく者達を屠る手伝いをするために九尾と共にいる。

彼らが如何様にして九尾の不快を買ったのかは知らない。
九尾は彼らを完全に屠り去るまではその身を動かす気はないようだ。
何故そこまで拘るのだろう?
今まで抱くことは無かった疑問が泡沫のように浮かび上がる。

しかし、煌がその問いを九尾自身に問いかけることはなかった。
今更そんな質問をしてどうしようというのだろうか、自分は。

脳裏を掠めた思考から目を逸らし、静かに瞬きを繰り返す。
まるでそうすれば今沸き起こった疑問が薄れていくというかのように・・・・・・・。


「して、煌よ。やれるか?」


九尾は何をとは言わない。
それは言わずともわかっていることだから。


「・・・・・・・・・・・」


煌はそれに言葉を返さない。

しかし、無言のまま九尾へと背を向け、その姿を周囲の闇へと溶け込ませていった。
九尾はそれが煌は都へと足を向けたことだとわかっていたし、それが『こたえ』であることだともわかっていた。

煌が姿を消し、周りには一つの気配も無い空間で九尾は一人哂った。


「期待しておるよ・・・・・・・・」


眇められた金はきらりと輝いた。







                        *    *    *







色を潜めた町並み。


黒の暗幕と、静かに瞬く星々が支配する世界。


外を出歩く者がほとんどいなくなる時間に、紅蓮達は日課となっている夜の見回りへと出掛けた。
もちろん、今回は十二夜叉大将の面々も共にいる。

少しの気配の揺らぎを見逃さないと言わんばかりに、神経を鋭く尖らせる紅蓮達。
いなくなってしまった、そして再び会うことのできた子どもの気配を取り零さないように・・・・・注意深く周囲の気配を窺いながら都を巡回する。

途中遭遇する雑魚もとい妖は瞬殺し(まぁ、闘える要因が7人ともなれば当然と言える)、ひたすら子どもの気配を探す。
・・・・・・が、広い都の中7人も固まって一点を探すよりは二手に分かれて探した方が良いだろうということになり、紅蓮・六合・因達羅(いんだら)、勾陳・迷企羅(めきら)・波夷羅(はいら)の組み合わせで途中別々に別れた。
その際、「嫌や!なんで姐さんと一緒に行動せなあかんのや?!絶対苛められるぅぅ〜(泣)」という約一名の抗議は聞き流されることとなる。

そうして別れた二組は、それぞれ反対方向を探すことにしたのだった。


「・・・・・・・なかなか見つからないな・・・・・・・・」

「あぁ、だが仕方ないだろう。そうそう都合良く会えるとも思えないしな」


少々の苛立ちを込めた紅蓮こと物の怪の言葉に、六合は軽く頷き返す。


「せめて奴らの潜伏場所がわかれば、こんな非効率的なことをしなくても済むんだがな」

「それとて難しいだろう。窮奇の時でさえ見つけることが大変だったのだろう?」

「まぁな。それこそ貴船の時みたいに何かしら異常が起こっている場所があるならともかく、そうそう尻尾なんて掴ませないだろう」


物の怪は器用に肩を竦め、疲れたように息を吐く。

更に今回は人が攫われる、襲い掛かられるといった事件も起こっていないのだ、妖達の潜伏場所など突き止められようはずもない。
手掛かりが一切ない状態で探すとなれば、それこそ当てもなくしらみ潰しという手しかない。
全く持って無駄な労力を費やす方法である。

と、そこでやや遠慮がちに因達羅が問いかけてきた。


「あの・・・・・その窮奇というのは・・・・・?」


そういえばこいつには話していなかったんだよなと思いつつ、物の怪は簡単な説明をすることにした。


「ん?あぁ、以前この都に異邦の妖達がやって来た時があったんだが、それの親玉が窮奇という妖だったのさ」

「窮奇は九尾との闘争の末、深手を負ってこの国にまで逃げてきたらしい」

「で、傷の回復の為に都の住民を手当たり次第襲ったり攫ったりしてたんで、晴明と昌浩が窮奇の討伐にあたったんだよ。秘密裏にな」

「だが、晴明が表立って動けば事は表沙汰になる。故に大体の所は昌浩が動いていた」


と、まぁこんなところか?と物の怪と六合は互いに視線を交わす。
大まかに説明すればこんなものだろう。
もっとつっこんだ話をするのは、相手が更に細かい話の内容を聞いてきた場合でいいだろうと判断を下す。

物の怪と六合の非常に端折った説明を聞いた因達羅は、ありがとうございますと言ってそれ以上に話の内容を追求してはこなかった。


「・・・・・・では、この度来訪した九尾という妖は、その窮奇という妖よりも強いということになりますね」

「そうなるな。まぁ、どの位強いのかは実際に対峙してみないことにはわからないがな」


まぁ、それも昌浩を取り替えそうという段階で巡ってくる可能性も否めないだろうな。

相手と対峙せずに取り返せるものなら是非ともそうしたいのだが、態々連れ去った子どもをみすみす逃すような真似を相手が許すかといったら、その可能性は大いに薄いだろう。


そうこうしている内に、物の怪達は町外れまでとやって来ていた。
人影はおろか建物の影さえも殆どない空き地を見、元々淡い期待ではあったが肩を落とさずにはいられなかった。


「随分、外れの方まで来てしまったな・・・・・・・・」

「そうですね。でも、街の隅々まで探そうとしてもこの人数では無理がありますしね」

「くそっ!一体どこにいるんだ?!」


「誰を探してるの?」


「「「?!!」」」


ふいに聞こえてきた声に、物の怪達ははっと顔を上げた。
隙無く周囲を見渡すと、少し離れたところにある木の枝に探し人の姿を見出すことができた。
銀髪琥珀の瞳をした子どもは、背を木の幹に預けながら枝に腰掛けていた。

驚きの表情を浮かべる物の怪達を、子ども―――煌は興味深げに見下ろす。
そして同じ言葉をもう一度投げかけた。


「誰を、探してるの?」


軽く首を傾げる動作と共に、銀糸もさらりと揺れる。

いち早く我に返った物の怪は、一歩前へと踏み出す。


「お前を、探していた・・・・・・・・」

「へ?俺??何でまたそんな面倒臭いことしてるの・・・・・俺、お前とは面識ないんだけど?あぁ、そっちの髪の長い神様には会ったことあるね」


目を瞬かせながら煌は六合へと視線を向ける。

と、その会話で物の怪は漸く自分が元の姿に戻っていないことに思い当たる。
一瞬の間に人型へと姿を戻す。

いきなり姿を変えた物の怪に煌は驚いたが、次に姿を現した人物に再び目を瞬かせる。


「あれ?さっきの物の怪って紅い髪の神様だったんだ?何であんな姿をとってたの??」

「こっちにも色々と事情があるんでな・・・・・・・」

「ふーん?・・・・・・まぁ、いっか。となると女の神様だけ別の人なのか・・・・・初めまして?」

「あ、え、えぇ・・・・・初めまして。名前、名乗った方がいいのでしょうか?」

「別に。名乗らなくていいよ。そっちの神様達も名乗ってないし・・・・・」


でしょ?と煌は以前顔を会わせたことがある二人の神へと視線を向ける。
それに紅蓮と六合は頷いて返す。


「・・・・・・確かに、前回は名乗っていなかったな」

「そうだな・・・・・なんなら名を名乗ろうか?」

「別に名乗らなくていいって言ってるじゃんか・・・・・・・・・・・それに、今からいなくなる相手の名前になんて興味ないしね・・・・・・・・・」


煌はそう言うと背を木の幹から離し、軽やかに地面へと飛び降りた。
紅蓮達は煌の言葉に訝しく眉を寄せた。


「?どういう意味だ?」

「ん?・・・・・・・こういう意味だよ」


煌はそう言うと手に不知火の妖剣を出現させ、すっと静かな動作で構えた。
紅蓮達はそんな煌の動きを見て、はっと息を呑んだ。


「今日は・・・・・随分と好戦的じゃないか?」

「前回、敵対宣言されたと思うんだけど・・・・・・。それに話したよね?俺達の目的・・・・・・・・・」

「あぁ、ある人物達を消すのが目的だと言っていたな」

「で、その相手やっと教えてもらったんだよね・・・・・・・・・・・」


六合の答えに、煌はにっこりと笑みを浮かべてそう言葉を続けた。


「なに?」

「そう・・・・・十二神将騰蛇ならびに六合。お前達も九尾が示した抹殺対象に入っている・・・・・・・・」


すっと煌から笑みが消え失せ、無表情に近い冷たい表情が現れる。
彼を取り巻く空気もぐっと温度を下げ、肌を刺すような冷え冷えとしたものとなる。
先日は本気でなかったと主張するようなあまりにも違いすぎる空気と、向けられるとは思ってもいなかった凍えきった殺気に、紅蓮達は目を見張り息を呑んだ。

殺気。そう殺気なのだ。
以前の昌浩は到底放つことなどないであろう気配。

表情も、空気も・・・・・・・何もかもが以前の昌浩とは違う。
紅蓮達は改めて過ぎ去った年月を・・・・・・・そして昌浩が以前の記憶を持っていないことを痛感した。

そんな紅蓮達の心情などお構い無しに、煌は無常にも言葉を放った。






「だから・・・・・・・・消えてくれる?」






仄白く光を纏う剣が、容赦無く閃光となって奔った。












耳を傾ける者がいない闇の中、哀しみの声が響いて消えた――――――――。

















                        

※言い訳
ほんっっとうに久しぶりの更新になります。以前は週1、2週1の更新でも当たり前だったのに、ここんとこ2・3日に1回は更新していたのでとても久しぶりな感じがします。今月はイベントやら何やらで忙しかったのでかなり更新が停滞していました。今も正にテスト期間中なので本当はこうして小説を書いてはいられないのですが・・・・・まぁ、息抜きに。
で、久しぶりに煌と紅蓮達が接触しました!う〜ん、でも実際お話の中での時間の流れでは昨日ぶりなんですよね・・・・・・・・;;あ、なんで煌が紅蓮達の名前を知っているのかというと、九尾に教えてもらったんです。だから知っていると・・・・・・。あ〜、あと何か質問等がありましたら毎回の如く掲示板にてお問い合わせください。

感想などお聞かせください→掲示板

2006/11/24