重なる映像。









覚えのない光景。









それらは己の意思など無視して脳裏を掠めていく。









それが酷く疎ましく感じて、苛立たしげにそっと唇を噛む。









所詮、それは”おれ”のものではないのだから――――――――――。

















沈滞の消光を呼び覚ませ拾弐〜

















「・・・・・・・・・・昌浩」


己を見て、そう言葉を漏らす青年。

神に属する者を背後に控えさせている青年の姿を見て、煌は厳しい表情を浮かべた。
神に属する者―――自分の記憶が正しければ、彼らは十二神将だ。
九尾が見せた映像の中にもその姿は度々出ていた。
そして、それは目の前に佇んでいる青年も同様であった。確か、名は―――――。


「安倍、晴明・・・・・・・・・」


九尾が抹消したい者達の中でも、特に消し去りたいと思っている相手。
九尾が抹殺対象にしているのは彼を中心に、彼を取り巻く者達のようであった。

そのことに気がついたのは、身動きを封じられているまさに今のことであった。


「大丈夫か?!因達羅(いんだら)!!」

迷企羅(めきら)、馬鹿?どう見ても、怪我してる・・・・・・」

「言葉の綾やあ・や!一々突っ込むな波夷羅(はいら)!!」

「!迷企羅、波夷羅・・・・・・・・・」


先の煌の攻撃の衝撃が残っており、未だ立ち上がることができない因達羅のもとに、迷企羅と波夷羅が心配そうに駆け寄る。
そんな二人の姿を見て、因達羅は安堵の息を吐くと共にぎこちなく微笑んだ。


「しっかし派手にやられたみたいやな〜。あの坊主、そんなに強かったんか?」

「えぇ・・・・とても、強かったです」

「あれが、昌浩・・・・・・?雰囲気が、違う・・・・・・」

「そやな。聞いとったことやけど、ほんま髪の色とか違うんやな〜。こりゃあ、確かに坊主をよく知っている人でも気づくのが難しいわけや」

「私も・・・・初めてそのお姿を見た時は、一瞬誰なのかわかりませんでした」


そうして三人は晴明と対峙している煌へと、揃って視線を向けた。


晴明は煌を、煌は晴明を・・・・・・それぞれ互いに相手を伺うように視線を交わしていた。
と、晴明がゆっくりとした動作で口を開いた。


「・・・・・三年ぶりだな。随分と大きくなったものだ」

「・・・・・俺は貴方など知らない。会ったことも、言葉を交わした記憶も全くないけど?」

「お前は三年前より以前の記憶がないのではないのか?だったら覚えがなくても道理だろう?」

「・・・・・・・・・」


記憶が三年より以前のものはない。
そのことについて煌が彼らの前で口にしたことは一度だってない。
けれど目の前の青年は口調こそ問う形であったが、確信を抱いていることは見る間でもなかった。
自信に満ち溢れた眼が煌へと向けられている。


「っ?!」


ふいに眩暈が襲う。

今と・・・・・今ではないいつかが重なって見えた。
煌は周囲へと視線を走らせることによってその幻影を振り払った。


「昌浩・・・・・・・」


恐る恐るといった感じで紡がれた言の葉。
声が聞こえてきた方へと視線を向けると、青年のやや後ろに栗毛を二つに結った幼い風体をした十二神将がこちらを見つめているのが見えた。

煌は声の発信源を突き止めると、多大に不機嫌そうに目を眇めた。
幼い風貌の神将―――太陰は、そんな煌を見てぴくりと肩を揺らした。
反射的に隣に立っていた玄武の衣装を握り締めた。
玄武はそれに少しだけ眉を動かしたが、それ以上の追求はしなかった。
それは太陰の心情もよく理解することができたからだ。

三年ぶりに顔を会わせた昌浩は変わっていた。
どこが変わったのかと聞かれたら困るくらいに、色々なところが以前の昌浩と異なっていた。
それの最たるものが彼の纏う空気だろう。

太陰達が知る三年前までの昌浩の纏う空気を例えるなら、春の暖かな空気。
そして今の昌浩―――煌の纏う空気は冬の凍てついた空気。
あまりにも両極端的な表現ではあるが、太陰達には今の昌浩がそれくらいに違って見えたのだ。


「・・・・・・それは、俺の名前じゃない。そこにいる三人の神将にも言ったことだけど」


煌はそう言って目線のみで紅蓮達を示す。
視線を寄越された紅蓮達はその視線を真っ向から受け止める。


「外見が変わろうとも、お前が昌浩なのは確かだ」


揺ぎ無い口調で紅蓮がそう断言する。


「―――って言って聞き入れてくれないしね」


体を動かすことができないので肩を竦めることはできないが、煌は呆れたような空気を醸し出す。
やや眇められがちな目が『まったく強情な奴らだよね』と言っているのが、ありありとわかる。


「・・・・・・この状況下で、随分と余裕な態度だな」


ふいに酷く冷めた調子の声が聞こえてきた。
煌が声の聞こえてきた方に視線を向けると、青い髪の神将が冴々とした視線を向けてきているのが目に映った。
その纏う空気もさることながら、見た目も随分と寒々しげな神将である。


「ん?・・・・・そうだね。最低限、命が取られることはないみたいだしね。俺が昌浩ってやつにしろ、そうでないにしろ、見た目が似たような奴が目の前で死なれるのは抵抗があるでしょ?」


それが大事な存在なら尚更ね。あ、それとも不快で殺しちゃうかな?
煌はその顔に不敵な笑みを浮かべた。

神経を逆なでするような煌の物言いに、青龍の眉間の皺がよりきつく顰められた。
射殺さんばかりに凶悪な視線を寄越してくる青龍などお構いなしに、煌は再び視線を青年―――晴明へと戻した。


「で?俺を捕まえて何がしたいの?・・・・・って言っても、こんな術直ぐに破られるけど、ねっ!」


瞬間、蒼炎が煌を中心に爆発する。
それと共に晴明の織り成した霊力の網がちりぢりに吹き飛んだ。

近くにいた者は皆安全な場所まで距離をとる。
玄武は晴明の前に咄嗟に出て、障壁を築いて炎を防ぐ。

炎が収まり、煌の姿が現れる。


『―――っ!?』


煌の姿を見た瞬間、紅蓮・六合・勾陳を除いた者達全員が、思わず息を呑んだ。

妖のように耳と尾を生やし、その身に妖気を纏う煌がそこに立っていた。
すぅっと琥珀色の瞳が眇められた。


「大勢対一人で多勢に無勢だけど・・・・九尾の命令だし、しょうがないか。お相手願えるかな?安倍晴明ならびに神将の皆さん」


その言葉と共に煌から蒼炎が四方に放たれた。
それは己を囲う者達へ向けての宣戦布告。


「俺とのんびり話をしたいのなら、完膚なきまでに叩きのめして振りほどけない拘束をしないと無理だよ?」


自身は不知火の妖剣を構えて目の前の抹殺対象へと斬り掛かっていく。

仄白く輝く妖剣が歓喜の咆哮を上げる。





煌は戸惑いなくその剣を振り下ろした。












そう、全ては九尾の望むままに―――――――――。















                        

※言い訳
あ〜、会話文をつらつらを引きずってしまいました。まだ戦闘に入ってないしさ;;
次はちゃんと戦闘シーン書きます!でないと話が進まないので・・・・。本当は今頃戦闘シーンは終わっている予定だったのですが、神将達とかなんとか出そうとしていたらいつのまにか文章が伸びてしまいました。う〜ん、無計画さがここにきて影響が出たか・・・・・・。

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2006/11/29