踊る蒼。









閃く白銀。









それらは容赦なく襲い掛かってきて、対する者を滅ぼそうとする。









きつく眇められた眼。









それは一体何を見ているのだろうか――――――――――?

















沈滞の消光を呼び覚ませ拾参〜


















「―――はぁっ!!」


裂帛の気合の篭った声と共に、剣が勢い良く振り下ろされる。


「っ、波流壁!!」


主へと目掛けて振り下ろされる剣を、玄武は障壁を築くことによって防ぐ。
バチリッ!と爆ぜるような音を立てながら、剣と障壁は真っ向からぶつかり合う。
ギチギチと両者の力は拮抗する。

それを見た煌は小さく舌打ちをして、すっと眼を眇めた。


「・・・・・・押せ、不知火」


低く吐き捨てられた命令に、不知火の妖剣は忠実に従った。
不知火は煌から力を吸い上げ、それを力へと変換する。
煌の力を得た不知火は、その身に纏う力を一層強くさせる。


「くっ!」


押す力が増したことに、玄武は小さく呻いた。

結界が歪む。


「そうだ、押し切れっ!」

「そうはさせるかっ!!」


あと少しで結界が破壊されるというところで、青龍はそうはさせじと大きな鎌を煌へと繰り出した。


それに気がついた煌は結界への攻撃を中断し、後ろへと飛び退く。

そんな煌を追従するように勾陳と六合が間合いを詰める。

取り出された筆架叉と銀槍を近づけさせないように、煌は蒼炎を牽制に放つ。

勾陳と六合は直ぐに身を翻すことによってその炎を避ける。

再び晴明へと攻撃しようとする煌の行く手を、風が吹き荒れて阻んだ。


煌は忌々しそうに己を阻む神将を睨み付けた。


「・・・・本当に邪魔ばかりしてくれるな・・・・・・。こうなったらお前達の方から先に消すか?」


それは問い掛けの形をとってはいるが、既に決定事項のようだ。

煌は不知火の妖剣を正眼で構えると、低く言霊を紡いだ。


「其は縛りなき蝶の如く・・・・・・胡蝶霞月の舞」


瞬間、無数の刃が煌を中心にして四方に放たれた。
敵・味方関係なく放たれるその攻撃は、己が以外に味方がいない正に今だからこそ使える技だ。

紅蓮達をはじめ、自身で結界を張ることができない者達はその攻撃をかわす、または打ち消すしかない。
余裕で回避・相殺できると判断した攻撃。
その攻撃をかわす・打ち消す瞬間、彼らは驚きに目を見開いた。


『なっ!!?』


それまで四方に放たれようとも直線的な攻撃だと思っていたそれは、回避・相殺しようとした直前に急に軌道を変えた。
捕まえようと手を伸ばした瞬間にその手をひらりとかわす蝶の動きの様に、その攻撃はするりと防衛網を掻い潜り抜けて神将達へと襲い掛かる。
急激な攻撃の軌道の変化に、神将達は対応しきれずにその身に幾つか攻撃を受ける羽目となった。
一瞬ではあるが神将達の動きが完全に停止する。
煌にとっては十分過ぎるほどの隙。


「っ!太陰!!」

「―――え?」


いち早く現状に気がついた勾陳が警告の声を上げるが、それよりも早く煌は太陰へと攻撃を仕掛けていた。


「まずは一人目・・・・・・・」


無感動な目線と声で、煌は不知火を持ち上げた。
あまりにも短い時間の出来事で咄嗟に動くこともできない太陰に、煌は無常にも刃を振り下ろそうとする。
その瞬間。

ヒュン!ヒュヒュン!ヒュン!!

鋭く風を切る音と共に無数の矢が煌へと襲い掛かってきた。


「!ちっ!!」


自分へと向けられて放たれた矢の存在に気がつき、煌は直ぐさまその場から身を退ける。
しかし、矢に気を取られていた煌は続けざまに己へと繰り出されていた独鈷の存在に、攻撃が届く直前まで気がつくことができなかった。

ザンッ!!


「―――ぁ」

「ちっ!外してしもたか・・・・・・」


煌の浅く傷つけられた左腕を見て、迷企羅(めきら)は軽く眉を顰めてそう言った。


「ほんまは右腕狙ったんやけどな」


せやったらそのけったいな武器かて持てんやろ?

迷企羅はそう言って、不知火の妖剣を持った煌の右腕へと視線を向けた。
迷企羅の感覚としてはあの剣が非常に厄介だと感じたので、それを無くした方がいいと判断して攻撃をしたのだが、結果は右腕ではなく左腕を浅く傷つけることに留まっていた。


「っ、貴様っ!!」


突然しゃしゃり出てきた夜叉大将に、青龍は鋭い眼光を向ける。


「あ〜ぁ、役立たずは黙っとき!あんさんらは理が邪魔して、この坊主に傷なんてひとっっつも付けられへんやろ?俺らはそんな縛りはあらへんからな、少なくともあんさんらよりはやれるはずや」


だから大人しくしとけと言ってくる迷企羅に、事実そうなので言い返すことができない神将達。
青龍は言葉では返すことができないので、変わりに多大に不機嫌な刺々しい空気を送っている。
他の神将達はそれぞれ悔しげに顔を顰めている。


「・・・・・・不意打ちで傷を負わせられたくらいで、勝った気にならないでよね?」

「誰もそないなこと言ってへんやろが。ま、あっちの奴らよりは良い動きができると思うで?」

「・・・・・・・本当に邪魔者が多いな」


おどけたように言う迷企羅に、煌はそうとだけ返した。

互いに武器を構え合い、同時に地を蹴った。

キィン!キィン!と金属の擦れ合う音が周囲に響き渡る。
時間にしては数分にも満たないほんの僅かな間。
一際大きな音と共に、煌と迷企羅の動きが止まる。

ぐぐっ・・・・と互いの武器が交わり、力が拮抗し合う。
きしりと金属が軋む音が微かにする。

ふいに迷企羅が口を開いた。


「なぁ、絶対に攻撃を当てる方法って知ってるか?」

「・・・・・・何を急に言い出すんだか」

「ま、ええやんか。でな・・・・・・その方法、俺が教えたるわ」

「は?」


思わず煌の口から間抜けな声が漏れるのと、迷企羅が腕に込めていた力を抜くのは同時。
迷企羅は襲い来る刃を最小の動作でかわし(と言っても肩を傷つけられたが)、一瞬の隙を突いて煌の右手に手刀を落としてその手から不知火の妖剣を取り落とさせる。


「っ!」

「逃がさへんよ?」


咄嗟に距離を置こうとした煌の腕を捕らえ、迷企羅はその動きを封じる。


「方法は簡単や、相手を動けなくさせたらええ」

「何を?!」

「やったれ波夷羅(はいら)!!」


驚きの声を上げる煌を無視して、迷企羅はそう声を上げた。

間髪入れずに波夷羅の放った無数の矢が、煌と―――迷企羅を襲う。
二人共、その身に無数の傷を負った。


「――っ、・・・どや?少しは効いたやろ?」

「くっ・・・・・、自分諸共仲間に攻撃させるなんて馬鹿じゃないか!?」

「馬鹿で結構や。こないな方法でもとらんと、いつまで立っても坊主に傷負わせられないやろが」

「そういう意味じゃない!相手に仲間のお前を攻撃させるその無神経さを馬鹿と言ってるんだ!あんたの行動は無謀って言うんだよ!!」

「・・・・なんや坊主、意外と優しいところもあるやんか」

「〜〜〜っ!一遍死ね!!」


ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人。
しかし、ふらりと迷企羅が体勢を崩した際に煌を抑える力が緩んでしまい、煌はその隙を突いて迷企羅の腕から抜け出した。

一度体勢を立て直そうとする煌。

しかしこの機会を逃がそうとしない者がいた。

煌と迷企羅の戦いを見ているしかなかった晴明は、今が好機だと感じた。
そして直ぐさま声を張り上げていた。





「今だ白虎!!」





瞬間、強烈な風圧が煌へと襲い掛かった。


「なに?!」


唐突に上方から叩きつけられた強風に、煌は耐え切れず膝を突いた。
先ほどの迷企羅との戦闘で負った傷が響いたらしい。

圧してくる風に逆らいつつ辛うじて顔を上へと上げると、そこには亜麻色の髪をした神将が宙に浮かんでいた。
晴明がこっそり上空に待機させていた風将・白虎である。

何とか風域から抜け出そうともがく煌に、追い討ちを掛けるかのように晴明が鋭く声を上げた。





「縛っ!!」





それは先ほど煌に施した術よりも短い言霊であったが、そこに込められた力と想いは何倍も強力なものであった。
晴明より放たれた霊力は、煌の四肢を力強く拘束した。


「くそっ!」


全く動かなくなった体に、煌は苛立たしげに眉を寄せた。
何とかして拘束から逃れようとする煌を見て、晴明は悲しげな表情を浮かべた。
といっても、それはほんの極短い間にだけ浮かんでいて、数瞬後にはすっと内に潜まり込んだ。

一歩一歩、踏みしめるように煌へと歩み寄る。
煌の前にまでやって来た晴明は、目線を合わせるかのように自分も膝を着いた。


「すまんな。少しの間だけ我慢していてくれ・・・・・・・」

「っ!何をする気だ!!?」

「・・・・・・・・・・・・」


警戒心も顕に睨み付けてくる煌に答えず、晴明はそっと煌の額に手を当てた。




そして、緩やかに呪文を唱えだした。














果たして、お前は戻ってきてくれるだろうか――――――――――?

















                        

※言い訳
はい、戦闘終了です。なんかじい様せこいな・・・・・・。迷企羅の手柄横取りしているような気がします;;
えっと、今現場に誰がいるのかごちゃごちゃしていてわからないと思いますので、一応説明しておきます。今現場にいるのはじい様と紅蓮・勾陳・六合・青龍・太陰・玄武・白虎、因達羅・迷企羅・波夷羅、そして煌です。うわ〜、明らかに大勢vs一人の構図ですね;;この人数相手では煌もしんどそうです。
あっ、ここで迷企羅の武器について補足させてください。普通の仏像が持っているような独鈷って武器っぽくないんですよね〜。ですから、独鈷を80〜90cmくらいの長さにして(長っ!!)、先端は鋭く尖っているという特別仕様の独鈷だと思ってください。じゃないとまともに戦闘できないです;;

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2006/12/2