物陰でガタガタと震えながら隠れている小さな妖達。 それを見て溜息一つ。 別に無視してもよかったが、何となく気になって声を掛けてみる。 面白いほどに大きく体を振るわせる妖達。 それを自分は愉しげに眺めた―――――――――。 |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜伍拾〜 |
紅蓮達はこの日も最早日課となってしまっている夜警に出ていた。 「今日はいつもに比べると静かだな・・・・・・・」 「ん?・・・あぁ、そうだな。まだ雑鬼達と一度も顔を会わせていないからじゃないのか?」 「なるほど。そういえば今日はまだ会ってないな」 ぽつりと零された紅蓮の呟き(今は元の人型に戻っている)に、勾陳は数瞬考えた後該当する答えを出す。 そんな勾陳の解答に、物の怪も納得したように頷いた。 いつも夜警に出掛けると、必ずと言っていいほど雑鬼達の集団に遭遇する。 それは昌浩がいるいないにも関わらず、恒例のこととなっている。 以前は恒例行事となっていた一日一潰れは当人がいないので行われることはなかったが、数だけは多い雑鬼なので顔を会わせる頻度はそれなりに高かった。 それなのに今日はまだ一度もその雑鬼達と顔を会わせていない。 だから常よりも静かに感じたのだった。 「気配が感じられないな」 周囲の気配を窺っていた六合は、そう言葉を紡いだ。 それにつられて紅蓮と勾陳も周囲の気配を探った。 確かに。この周辺に彼らの気配が感じられない。 もしかしたら息を潜めているだけなのかもしれないが、ではどうしてという疑問に突き当たる。 「何か、あったのか?」 「さぁな。そこら辺にいるやつをとっ捕まえて事情が聞ければそれに越したことは無いが・・・・・・・」 「探し出すのにも苦労しそうだな」 三人は揃って顔を見合わせた後、ふぅ・・・と息を吐いた。 そして三人は雑鬼達を探し始めたのであった――――。 * * * 「くっそ〜、折角あの蛇蜥蜴がいなくなったっていうのにさ・・・・・・」 「同じ趣向をしたやつがまた出てくるなんて!」 「しっ!静かにしろよ、見つかったらどんな目に遭わされるか」 グルルルル・・・・・・・ 「ひっ!」 「だ、大丈夫だって!まだ近くには来てないし・・・・・」 「何が来てないの?」 「「「!うわあぁぁぁっ?!」」」 「・・・・・うるさい」 唐突に聞こえた第三者の声に、雑鬼達はビクゥッ!と大きく身体を震わせて文字通り飛び上がった。 バッ!と背後を振り返ると思わぬ大合唱に耳を傷めたのか、片手で耳を覆っている煌が佇んでいた。 怯えていた声の主ではないとわかった雑鬼達は、そこで特大な安堵の溜息を吐いた。 「な、なんだ〜、お前かぁ」 「脅かすなよ!」 「そうだ、そうだ!心臓に良くないぞ!!」 「そんなこと言われてもねぇ・・・・・。で?こんな所にこそこそと隠れて何をしてるの?」 「あ・・・・そ、それは」 「それは?」 グルルルルッ! 「!き、来た!!」 割合、近くから聞こえてきた獣の唸り声に、雑鬼達はぎくりと身体を竦ませた。 怯える雑鬼達を余所に、煌はさして気にする風でもなく、唸り声が聞こえてきた方へと視線を向ける。 声の主は未だに視界に入り込むことはないが、そう遠くにいるわけでもないということは漂ってく妖気の濃さで窺い知ることができた。 そちらをちらりと一瞥した後、改めて雑鬼達へと煌は視線を移した。 「ふーん、またかくれんぼをしてたんだ?」 「か、かくれんぼって・・・・・・;;」 「間違ってないでしょ?あの声・・・あいつに見つからないようにこんな所に肩を寄せ合って隠れてる。違う?」 「そりゃあ、間違ってないけどさ」 現状を的確に言い当てる煌に、雑鬼達はやや不満そうにだがその言を肯定した。 そんな雑鬼達に、ほら間違ってないだろ?と煌は軽く肩を竦めてみせた。 「しかしお前達ってよく追われるんだね」 「好きで追われてるんじゃないやい!」 「この間みたいな蛇蜥蜴野郎と似たような奴がまた出てきたんだよ!」 「似たような奴?」 軽く首を傾げる煌に、雑鬼達は大きく頷いた。 「そう!喰うわけじゃなく、嬲り殺すだけっていうあれだよ!」 「こう頻繁にえぐい趣向を持った奴が出てくると、安心して道を闊歩することもできないって!」 「何て言ったって俺達弱いもんな!」 「えばって言うなよ・・・・・」 煌は呆れたような表情で息を吐いた。 それでも尚言い募ってくる雑鬼達に、いい加減煌が口を開こうとした瞬間。 グルルルルッ!! 直ぐ間近で唸り声が聞こえた。 声の聞こえてきた方を見遣ると、猫と狐を足して割ったような姿をした(しかし、身体の大きさは子馬程ある)妖が、丁度暗闇から姿を現したところであった。 「!」 「「「ぎゃぁ―――っ!!」」」 雑鬼達は声を揃えて叫び、素早く煌の背後に回り込んだ。 そんな雑鬼達の様子に、煌は思わず半眼になった。 「お前ら・・・・・・」 「だ、だって怖いしよぅ」 「お前強いじゃんか!」 「助けてくれよ!な?」 ひしっ!と足にしがみついて雑鬼達は必死に頼み込む。 そんな雑鬼達が気に入らなかったのか、吉量が剣呑に目を眇めて威圧するように一歩足を踏み出す。 煌の手を煩わせるなと、饒舌な程に金眼が告げていた。 そんな吉量に、雑鬼達はびくりと身を竦ませた。 が、それを深く溜息を吐いた煌が片手で制した。 「いいよ、吉量。別に俺は気にしてないから・・・・・・」 こんな奴らを構うことは無いのに・・・・と目線で訴えかけてくる吉量に、煌は心配するなと笑みを返した。 そして、吉量と雑鬼達を庇うように数歩前に出た。 煌と妖が対峙する。 「悪いけど、大人しくここを立ち去ってくれないかな?」 「グルルルル・・・・・」 「俺としては無駄な闘いは是非とも避けたいんだけど」 「グルルルル・・・・・」 「駄目、かな?」 「グ、ガアァァァッ!」 話し掛ける煌などお構い無しに、妖はいきなり飛び掛ってきた。 「そう・・・。交渉決裂、だね。面倒くさいなぁ・・・・・」 そんな急な妖の動きに少しも驚いたような仕草は見せずに、煌は淡々とした調子でそう呟いた。 すっと片手を妖に向かって突き出す。 「さっさと消えて」 そう言葉を紡ぐと共に、甚大な霊力の塊を妖へと撃ち放った。 ゴゥッ!と空気がうねる。 そのうねりは容赦無く妖へと襲い掛かり、あっという間に肉片へと変えた。 ほんの一瞬の出来事であった。 「はぁ・・・・。今回はこいつ一匹なんだよね?」 「あ、あぁ。今回はこいつだけだ・・・・助かったよ」 「そ?俺としては手応えがなくてつまらなかったけどね」 「・・・・・・・;;」 大層面倒臭がっていた割りに、つまらないって・・・・・。 雑鬼達の心中は複雑であった。 が、やはり今回も助けてもらったことに変わりはない。 雑鬼達はそう考え直すといつもの調子を取り戻した。 「ま、俺らはそれで助かったわけだし。礼を言うぞ!」 「そうそう!ありがとうな!!」 「本当に助かったよ!他の奴らにももう安全だからって伝えなきゃな!」 「別にお礼なんて言わなくても・・・・まぁ、いいや。それより、今のようなやつじゃないにしろ、また別のやつに襲われても俺は知らないからな。さっさと塒(ねぐら)に帰ったら?」 「そうだな!それじゃあ助けてくれてありがとなー!」 「お前も気をつけろよー!」 「じゃあなー!」 煌の言葉に、雑鬼達はそう元気に言葉を返して闇の中に紛れ込んでいった。 煌はそんな雑鬼達を、最初から最後まで賑やかな奴らだよなぁと思いながら見送った。 雑鬼達の気配が完全に遠ざかるのを確認してから、煌は身軽な動作で吉量の背へと飛び乗った。 「あんな奴ら、別に喰われたってどうでもいいんだけどなぁ・・・・。何で声掛けちゃったんだろ?」 あまつさえまた助けちゃったし・・・。と煌は自分の行動を不思議そうに省みた。 一度ならず二度までも取るに足らないような弱い存在を助けたことに疑問を抱きつつも、まぁ、人好きするような奴らだったしなぁと無理矢理自己完結をした。 「ま、そんな気分の時もあるか。吉量、あいつらを探しに・・・・・って、必要なさそうだね」 直ぐ間近までやって来ている清冽な神気に気がつき、探す手間が省けたなと煌は独りごちた。 程なくしてお馴染みと言っていい面子である紅蓮達がその場に姿を現した。 先ほど煌が妖を屠った際に生じた気に気がついたのだろう。 「―――!昌浩!」 いち早く煌に気がついた紅蓮が鋭く声を上げた。 だから昌浩じゃないのに・・・・。と煌はぶつぶつと愚痴りながらもひらりと乗ったばかりの吉量の背から降りた。 少し距離を開けた先に佇む神将達に、煌はにこりと笑いかけた。 「久しぶりだね。十二神将騰蛇、勾陳、六合」 こうして彼らは一月ぶりに再開を果たすこととなった――――――――。 ![]() ![]() ※言い訳 この回に雑鬼達を出す必要はあったのだろうか・・・・?と自分で書いておいて疑問に思ったりしております。 ・・・・・白状します。雑鬼達、ただ出したかっただけです。つーかその方が紅蓮達とナチュラルに遭遇できるんじゃね?と思って再び出演してもらいました。それだけ。 煌と吉量のコミュニケーションの様子を書きたかったのですが、見事玉砕しました。全然会話(といっても目で)できなかったし・・・・トホホ;; そして気がついたこと。とうとう50話いっちゃったよ!?最長記録更新中ですね。うん、我ながらよく続けているな。 感想などお聞かせください→掲示板 2007/1/16 |