求めるもののために相対する。 信じるものは相反する。 己が信念を貫くため、 己が想いを守り抜くため、 その持ち得る力すべてでぶつかり合う――――――――。 |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜伍拾捌〜 |
ざわり、ざわり・・・・・。 木々のざわめきのみがその耳へと入ってくる。 まだ昼間だというのに森の中だと陽光も極端に少量になり、辺りは薄暗く色彩も鈍い。 森―――貴船の麓へと晴明達はやって来ていた。 向かうは異邦の妖達の潜伏場所へと通ずる入り口。 この森を含んだ山の主とも呼べる高淤加美神が態々安倍邸へと足を運んで教えてくれた場所である。 周囲の気配を窺いながら歩みを進めていた晴明は、ふと一本の巨木の前にまで来るとその歩みを止めた。 彼の後ろに付き従っていた十二神将達と十二夜叉大将達もそれに倣って歩みを止めた。 ちなみに、今いる夜叉大将は迷企羅(めきら)、波夷羅(はいら)、安底羅(あんてら)の三人である。 「・・・・・ここじゃ。この木に気の歪みが感じられる」 「この木が、入り口・・・・・・・・・」 「お前達、準備はいいか?」 「あぁ、問題ない。・・・・さっさと行って、さっさと昌浩達を助け出すぞ」 それぞれの顔色を窺ってくる主に、人型へと戻った紅蓮は時間が惜しいとばかりに先を急かす。 そんな紅蓮に、晴明は明るく笑って返した。 「ほっほっ!頼もしい限りじゃな。では行くぞ」 晴明の言葉に、当人以外の者達は真剣な顔で頷き返した。 晴明はそれを確認した後、木へと向き直りその手を翳した。 静謐とした晴明の澄んだ霊力が力強く放たれ、広がっていく。 と、霊力の広がりにつられるかのように、木が段々と歪みだした。 その木を中心に淡い燐光が足元の地面から立ち上る。 その燐光がその場にいた者全員を包み込んだ瞬間、その場から全員の姿が掻き消えた。 後にはひらりと舞い落ちる一片の葉だけが残された―――――――。 * * * 「・・・・・・どうやら来たようだな」 「うん・・・・そうだね。間違いない、あいつらの気配だ」 光が一切射すことのない世界で、九尾と煌(こう)は異分子たる気配を感じ取っていた。 無論九尾の配下たる妖達は既にその地点へと向かっている。 「いいの?数、減っちゃうよ?」 「問題ない。あやつらには我の力を多少なりとも分け与えてやった。倒せずとも体力の消費くらいの役には立つさ」 「それこそ九尾の力が勿体無い気が・・・・・・・・」 「ふっ、そんなもの、爪の先ほどしか消費しておらぬわ」 「それって微妙な表現・・・・・・」 いくら少数精鋭でこの国に渡って来たといっても、数はそれなりにいる。 それら全部に力を分け与えておいて、消費した力は爪の先ほど・・・・・九尾の内容量の深さが窺える。 「それにしても、随分と団体さんで来てるね」 「そうだな。まぁ、大数対少数だからな。幾ら個々で力があろうとも、時間が取られるのは必須。なればこそ少しでも人員は多いと考えたのだろうな」 「まぁ、確かに・・・・・。ねぇ、久嶺(くりょう)」 「ん?なんだ?」 「あれ、本当にやるの?」 含んだ物言いで問い掛ける煌に、九尾は頷いて肯定した。 「あぁ、やるぞ。あやつにも了承を得ておいたからな。後は奴等次第さ」 「・・・・・・・・」 「どうした?不満か?」 「まぁ、そりゃあね。でも、久嶺が決めたことだし、俺は口出ししないよ。言われたとおりの役割を果たすだけだ」 「くっくっくっ!頼むぞ?お前が上手く立ち回ってくれなければ、先に進みようがないからな」 「わかってるって!」 金の瞳を愉快そうに眇める九尾を煌はやや不満そうに眺める。 本当は、これから九尾が行おうとしていることにはあまり賛成していない。 危険度は低ければ低いほどがいい。しかし、九尾がこれから行おうとしていることは危険度が高く、それでいて帰ってくるものが大きい賭けらしい。 煌はその大きい報酬が何なのかは大体わかっているが、だからこそ反対しているとも言えるだろう。 自分としてはその帰ってくるものが大きいとはあまり思えないから・・・・・・。 「・・・・・それじゃあ、俺も騒ぎに参加してくるよ。頃合を計って動くから、久嶺はそれを待ってて」 「そうか、それでは我はその時をゆるりと待っているとしよう」 「勝手に動いたりしないでね?―――吉量(きちりょう)!行くよ!!」 九尾に己から動くことはないように釘を刺し、煌は朱色の馬のような妖―――吉量を連れて侵入者の気配へと向かって行った。 九尾はその姿を見送ると、くつくつと喉の奥で笑い声を上げた。 「さて、奴等がどのように反応するか、楽しみよのぅ・・・・・・・」 * * * 一方、無事に九尾達の潜伏場所へ潜入を果たした晴明達は、さっそく大量の妖達に囲まれていた。 「ちっ!思っていたよりも梃子摺る」 炎蛇を召喚しながら、紅蓮は忌々しげに目の前を阻む妖達を睨みつける。 以前争った窮奇の配下よりも、数段とこの妖達は手強かった。 当然だ。元々少数精鋭であるのに、そこに更に九尾の力が上乗せされているのだ、そこら辺にいる妖よりも遥かに強いのである。 しかしそんなことなど晴明達は知る由もなく、次々と襲い掛かってくる妖達を払うことに集中した。 「くっ、纏まっていてもどうにもならん!皆それぞれ散れぃ!!」 一ヶ所に纏まっていれば集中的に叩かれると判断した晴明は、少数に分かれるように指示する。 その命を受けた神将達は、それぞれの考えによって分かれる。 「紅蓮達は昌浩と彰子様を探せ!他の者達はこの場を殲滅する!」 『わかった(わ)(りました)!』 その返事と共に、紅蓮・勾陳・六合・迷企羅・波夷羅・安底羅達は昌浩を探すためにその場を離れ、残りの者達は彼らの動きを妨げられないよう、道を作ることに全力を注ぐ。 上手く紅蓮達が抜け出せたのを見送ると、晴明達は改めて異邦の妖達を見据える。 離れた紅蓮達の後を追おうとする妖は容赦なく打ち払い、この場に留めさせる。 「さて、我々はこ奴等の相手をしようかのぅ」 「晴明!お前は後ろで大人しく傍観していろ!こんな雑魚など俺達が一掃してやるっ!!」 懐から札を出して構えようとする晴明に、容赦無く檄が飛ぶ。 声の主は言わずもがな蒼髪蒼眼の神将―――そう、青龍である。 声に出して言わずとも他の神将達も同意見なのか、それぞれ何かを懇願するような必死な視線を向けてくる。 「お前達な・・・・・そんな悠長なことを言ってられぬじゃろうに。わしらとて紅蓮達に追いつかねばならん。そこのところを理解せんか・・・・・・」 「わかってるわよ、そんなこと!だからこうして休む間もなく妖達を倒してるんでしょうがっ!!」 太陰の癇癪じみた叫び声が聞こえたかと思うと、周囲を暴風が吹き荒れた。 次々と妖が吹き飛ばされていく。 吹き飛ばされて地面へと叩きつけられた衝撃で身動きが取れない妖達を、朱雀と青龍が容赦無く叩き斬っていく。 太陰や白虎も風の刃を生じさせて、次々と切り刻んでいく。 天一と玄武はたまに攻撃をすり抜けて襲い掛かってくる妖達を、その強固な障壁で弾き飛ばしている。 神将達に非難を浴びさせられながらも、晴明も妖達を払うその手を緩めることは無い。 妖達の数も半ばほどに減った頃、変化は唐突に訪れた。 ゴアアァァアァァァッ!! 妖達の相手をしていた神将達に、強大な蒼炎が襲い掛かる。 「なっ!?」 迷い無く一直線に突き進んでくる炎に、神将達は敢え無く攻撃の手を緩める羽目となる。 「この炎は・・・・・・・・」 見覚えのある蒼炎に、晴明を始めとした神将達は驚愕に目を見開いた。 「ちぇっ!当たらなかったか・・・・・・一人くらい当たってもいいのに」 蒼い炎の残滓を手に纏わりつかせながら、残念そうに口先を尖らせる銀髪の妖―――否、煌がそこにはいた。 彼の背後、やや離れたところには彼の相棒とも言える馬の妖・吉量の姿も見えた。 『煌さまっ!』 『煌さま・・・・』 銀髪に耳と一尾を備えた煌の存在に気がついた妖達は、助けを求めるかのように煌の名を呼ぶ。 煌はそれに対し嫌そうに顔を顰め、呆れたような声音で妖達へと言葉を紡いだ。 「ちょっとお前達!九尾から力を分け与えてもらったくせに、この様はなんなの?!もうちょっと根性みせなよね!!」 神将達相手にある意味不条理なことを言う煌。まぁ、所詮は下っ端なので仕方ない。 呆然と視線を向けてくる晴明達に気がついた煌は、改めてそちらへと視線を向けた。 「やぁ、お久しぶり。安倍晴明並びに神将の皆様方?」 皮肉げな口調で、挑発するかのように煌はそう挨拶をした。 ふわりと、妖力の残滓によって長い銀髪が揺れた。 今度は、前よりも俺を楽しませてよね―――――――? ![]() ![]() ※言い訳 というわけで、ちまちまと更新しております。 今回は少々短めの文章となりました。だって、ここが丁度よく区切れるんですもの・・・・・。 再びじい様達vs煌。でも、どっちかっていうと神将達vs煌になりそうです。 今回一番書きたかったシーン。言わずもがな妖達が煌を「煌さま〜」と呼ぶシーンです。(笑) だって九尾のお気に入りですよ?それなりに強いし、これで敬わないはずがないです!!(爆笑) 頑張って更新していきますので、応援のほど宜しくお願いします。 感想などお聞かせください→掲示板 2007/5/20 |