激しい思いが胸の中を渦巻く。









黒い感情が徐々に思考を侵食していく。









愛しむ心は憎む心へ。









本当はこんな感情を抱きたくはなかった。









嘆きの声のみが喉を迸った――――――――――。

















沈滞の消光を呼び覚ませ碌拾参〜















ぶわりと蒼炎が黒の空間に立ち上る。


「堕落した神の分際で、我に敵うと思っているのか?」

「妖風情が・・・・いい気なるなっ!」


己が生み出した炎を変幻自在に操りながら、九尾は向かってくる神将達に嘲りの笑みを投げやった。
そんな九尾の言に対し、青龍が蒼眼にぎらりと鋭い光を宿しながら己の得物――大鎌を振るった。
九尾はその攻撃を後ろへと跳んでかわす。
青龍はそれに追い縋ろうとするが、そこは九尾が放った無数の炎弾に足を留められた。


「行くぞ!太陰!!」

「わかってるわよ!白虎!!」


九尾が一旦後ろへと後退した瞬間、上空で待機していた白虎と太陰が風を操って九尾へと攻撃をしかける。
すぐさまそれに気がついた九尾は、迎え撃つべく己も蒼炎を繰り出した。

ゴアアァァアァァァァッ!!!

荒れ狂う風と爆ぜる炎がぶつかり合う。
互いの力は同等。しばらくの間せめぎ合っていたそれらは、互いを相殺するという結末を迎える。
が、炎と風が消えるその瞬間、九尾へと踊りかかる影があった。


「はあっ!!」

「―――っ!」


相殺し合った力の残骸が九尾の視界を瞬間だけ奪い、その間に朱雀が間合いを詰めていたのであった。
僅かに反応の遅れた九尾は、朱雀の太刀をその身に受けることとなった。


「ちっ!浅い!!」


己が手に伝わってきた手応えに、朱雀は悔しそうに眉を寄せた。
一方、朱雀の攻撃を受けた九尾は、己の斬られた箇所―――手の甲から肘にかけての浅い切り傷を面白そうに見ていた。
そして傷口を徐に口元へと持ってくると、ぺろりと一舐めした。


「(くすっ・・・)久方ぶりに怪我などを負ったな・・・・訂正しよう。お前達は腐っても神だな」


九尾はそう神将達に向かって話しつつ、怪我を負った腕をひゅっと一薙ぎした。
ぴぴっと、腕を伝っていた血糊がその勢いで地へと落ちた。


「まぁ、この程度の傷、我にはかほども意味を成さぬがな・・・・・」

「なっ、傷が―――っ!!」


血を掃った九尾の腕は、うっすらと赤い線を残して朱雀が負わせたはずの傷が癒えていた。
九尾の治癒能力の高さに、神将達は少なからずも驚きを隠せなかった。


「―――ナウマクサンマンダ、バザラダンカン!!」


思わず動きを止めてしまっていた神将達の背後から、鋭く声が放たれた。
直後、凄絶な霊力を帯びたいくつもの刃が九尾へと襲い掛かった。


「!全く忌々しいものよ・・・のぅっ!!」


九尾は己が手のひらに炎を生み出し、そのまま手を横薙いだ。
すると、蒼い炎はまるで幕を張るかのように九尾の前方にぶわりと広がった。
次の瞬間、晴明が放った霊力の刃が炎幕とぶつかり、激しい爆音を響かせた。
辺り一体を煙が包み込んだ。

油断なく九尾がいるであろう方向を見ていた晴明達を、煙を突き破って蒼炎の玉が襲い掛かっていた。


「やらせはしないっ!」


九尾の攻撃いち早く反応した玄武は、それを阻むべく水の障壁を織り成す。
玄武が障壁を作り終えた途端、火の玉が容赦なく障壁にぶつかった。
びりびりと、障壁を壊さんばかりの衝撃が玄武の伸ばされた手へと伝わってくる。
玄武は頬に汗を伝わせながらも、九尾の攻撃を凌ぎきった。


「くっくっ!あの程度の攻撃では我は倒せぬぞ?安倍晴明」


煙が晴れたその向こうで、蒼き焔をその身に纏わせた九尾は余裕そうな笑みを浮かべたままそう言った。
九尾は先ほどの爆発で衣類の若干の乱れは見受けられたが、怪我らしい怪我を全く負っている様子はない。
そんな九尾の姿を見た晴明は微かに眼を細めた。
ぴりぴりと殺気にも似た鋭く研ぎ澄まされた気が周囲へと広がっていく。と、その時





「ならばこの位の攻撃は如何ですか?」





凛とした声と共に、あらぬ方向から鋭い斬撃が飛んできた。
九尾は咄嗟にその場から飛び退くが、頬にちりりと熱が奔るのを感じた。それと共に銀糸が一房宙へと舞い散ったのも視界の隅で捉えることができた。
地へと着地すると同時に、九尾は声の聞こえてきた方へと鋭く視線を向けた。

たった今、空間に響いた声に聞き覚えがあった。この声は・・・・・・・





「貴様かっ!薬師瑠璃光如来!!!」





九尾の金眼が向かうその先。
そこには仄白い気を纏った剣をその手に携え、配下である十二夜叉大将を引き連れた薬師瑠璃光如来が佇んでいた。


漆黒の空間を背景に、金色と瑠璃色が互いを見据え合った――――――――。








                         *    *    *








「目醒めろ、不知火(しらぬい)。・・・・・あいつらを血の海に沈めるぞ」


煌(こう)は呼び寄せた妖剣にそう声をかけると、次の瞬間には地を蹴った。


「煌っ!」

「うるさい。お前の、お前達の声なんて聞きたくない!名も・・・・呼ぶなっ!!」


裂帛の気合と共に鋭く振り下ろされる剣を炎槍で受け止めた紅蓮は、己の声に耳を傾けようともしない子どもを悲しげに見遣った。
しかし、怒りと憎悪に囚われた煌には、紅蓮のそんな表情に気づくことはなかった。




「其は餌(え)を狩る狼の如く――――妖狼咆振撃の舞」


鋭利な斬撃が飛び、


「其は地を這う蛇の如く――――狩蛇奔土流の舞」


地が隆起し、砕け割れ、


「其は縛りなき蝶の如く――――胡蝶霞月の舞」


無数の刃が煌を中心にして四方に放たれ、


「其は飛来する翡翠(かわせみ)の如く――――飛突落刺嘴の舞」


空から霊力の針の雨が降り、


「其は敵を排する蜂の如く――――蜂鋭尖突の舞」


妖力の塊が一点に集い、穿つ。




息を継ぐ間もなく、煌は次々と技を繰り出していった。
紅蓮達はその勢いに押され気味になり、深手ではなくとも浅い傷を無数にその身に負った。
しかも、狙ってくるところがどれも急所なので、攻撃が掠るだけでも冷や汗が流れる。

この連撃の合間に紅蓮達は理解した、煌は本気で自分達を殺そうとしている・・・・と。

一方、容赦ない攻撃を紅蓮達に放っている煌はというと、致命傷を誰一人として負わせることができないことに苛立ちを募らせていた。
一対六という圧倒的に不利な数字なのは承知の上だが、それでも目の前にいる敵を皆殺しにしたいという暗い欲求を覚えずにはいられなかった。
今までこれほど他者に憎しみという気持ちを抱いたことはない。
それほどに、あの馬にも似た妖が大事なのであったということを、改めて認識していた。


(絶対に、許すものか―――――っ!!)


ちりちりと、煌が放つ殺気に漆黒の空間が震える。

煌は蒼炎を繰り出し、紅蓮達と一旦距離を空けると、ざくっ!と地面へ不知火の妖剣を突き立てた。
剣の柄を握ったまま、煌は不知火を完全に目覚めさせるべく、最後の詠唱を紡ぎ始めた。


「其は時に狼、時に蛇、時に蝶、時に翡翠、時に蜂。其の姿は形無く、全てが泡沫の見せる幻。あるべき姿を取り戻せ、水面に彷徨う光芒――――汝の名は”不知火”」


詠唱が終わった瞬間、不知火の妖剣は今までの中で一番眩い光を放った。










さぁ、その命を刈りに行こうか―――――――――。













                        

※言い訳
はい、話が思い浮かんでいるうちに続きを書くことにします。じゃないと無気力症候群にかかって、書く気力を無くしてしまいそうなんで・・・・・。
戦闘シーン、難しいな・・・。段々パターンが似てきている気もしなくはないのですが・・・・大丈夫ですかね?
じい様達、頑張って戦ってるんですけどね・・・・何か九尾が強すぎるような気も;;もう書いてしまった後ですし、どうしようもありませんね。そして久々に登場!瑠璃様(と、書かれてないけど十二夜叉大将の皆さん)!!一体どのくらいぶりなんだ?!もう忘れ去られてしまっているのではないかと冷や冷やしています;;この次はアンケート結果を反映できるようにお話を書いていきたいです。・・・・頑張ろ。

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2007/8/31