しんしんと天より降り注ぐ白き欠片達。









音もなく降ってくるそれらは、積もることなく消えてゆく。









温度など無いはずのそれらは









しかし、とても冷たく感じた。









あぁ、悲しみに彩られた声が聞こえる―――――――――。
















沈滞の消光を呼び覚ませ
















白く、そして半透明な不思議なそれが果ての見えない天より降ってくる。

少年はそっと、手のひらを差し出した。
一欠片、降ってきたそれが差し出された手のひらへと受け止められる。
すぅ・・・っと、まるで雪の結晶が溶けていってしまうかのように、その欠片はその姿を消していった。


「・・・・・・・いたい」


少年は差し出したままの状態の手のひらへと視線を落としたまま、ぽつりと言葉を零した。

悲鳴が聞こえる。

大切な存在を――守りたかった存在を失ったが故に上げられる叫び声。
何故・・・・・と、何度も繰り返し自問の言葉を紡いでいる。
きしり。
温度などあろうはずもない空間。されど音もなく降り続ける白の結晶がありもしない温度を感じさせ、冷たい空気を黒の空間に満たしていく。


「・・・・・・・かなしい」


耳に届く悲鳴と共に、その内に抱く感情の波も少年へと伝わってくる。

少年と声の主はそれぞれ独立した人格である。しかし、それと同時に根本は繋がった同じ存在でもあった。
故に届く。少年の片割れの『想い』が――――。



『賭け事を我とせぬか?』



銀色の妖の言葉が、少年の脳裏に木霊した。

少年は静かに目を伏せた。
背伸びをするかのように、精一杯両腕を天へと差し伸ばす。





「なかないで・・・・・・・・・」





少年の口から紡がれた言葉は、静かに闇へと溶けていった――――――――。







                        *    *    *







きぃいん!と、高く澄んだ音が空間を振動させる。

煌(こう)は受け止められた刃に、ぎしりと悔しげにきつく奥歯を噛み締めた。
爛々と苛烈な輝きを宿した瞳は、それだけで相手を射抜き殺さんばかりに強く見据えられる。
視線の先には鳶色の髪の十二神将―――六合。
彼の神将はさして表情を動かすことなく、感情を波立たせる様子もなく煌の相手をしていた。それがまた腹立たしさに拍車を掛ける。


「俺は、これほどまでに憎いという感情を持ったことはないよ、神将―――」


煌は声量を抑えた声で、ふいに言の葉を紡いだ。


「吉量(きちりょう)は俺にとって、唯一の友達だった・・・・・」


煌は顔を歪めながら、そう言葉を吐き出す。
荒れ狂う感情のままに、その手に持つ刃を振り下ろす。


「九尾の配下の中で、一番長く俺の傍にいてくれたのも!」


家族の記憶を持たない煌にとって、家族と言えた存在。
九尾――久嶺とはまた別に、大切に思っていた存在。それが、吉量―――。


「だから、俺は憎い!」


煌は銀槍を掻い潜り、六合へと肉薄する。
それに気づいた六合は、距離をあけるべく後ろへと後退した。


「それを奪った、お前達が!!」


銀閃が弧を描く。
その切っ先は六合の頬を掠め、鳶色の髪を数本宙へと切り飛ばした。
六合はそんなことなど気にも留めずに、更にもう一歩後ろへと後退する。

開いた二人の空間に、今度は黄金色が割って入った。


「坊主の言ったことは確かや。けど、それは覚悟の上でのことやろ・・・・・・?」

「―――っ!」

「俺らと敵対すると決めた時から、奪うことと同時に奪われる可能性があること、考えなかったはずがないやろ?」

「〜〜〜っ、それでも!」


ぎぃん!と、不可視の刃と独鈷杵が交差する。そしてその衝撃で交わっていたそれもすぐに離れた。
煌は間を空けずに更に一歩、前へと踏み出す。
相手の胸を貫くため、真っ直ぐに切っ先を相手へと突き出した。


「守りたかった・・・・・!」


迷企羅(めきら)は煌の叫びにも似た言葉に、苦い笑みを零した。僅かに細められた榛色の瞳は微かに揺らぎを見せていた。
繰り出された煌の突きを後ろへと飛んでかわす。その距離は、最初に煌と刃を交わらせた時よりも多めにとられていた。
しかし、煌はそんな迷企羅を見て歪んだ笑みを口元に浮かべた。

無駄だ、だってこの不知火の妖剣は・・・・・・・。

煌は舞い散る紅を思い、更に笑みを深いものとした。
突き出された切っ先は、迷企羅の胸へと真っ直ぐ突き進み――――

ぎぃぃん!!

寸でのところで挟まれた独鈷杵に、その切っ先は阻まれた。


「なっ!?」

「ふぅ〜、全く冷や冷やしたわ。剣が見えへんから、防ぐのにも神経つこてしまうなー」


剣先を阻まれたことに驚愕する煌に、迷企羅は冷や汗を流しながらもにっと笑みを浮かべた。
驚愕の表情を浮かべていた煌は、しかしすぐに厳しい表情へと変えると、低い声音で迷企羅に問うた。


「・・・・・・何故、剣のくる場所がわかった?」

「ん〜、坊主の手元を見てやな。いくら刃が見えへんかて、坊主が剣を持っていることに変わりはないやろ?坊主の手元見て、大体の角度とか方向にあたりをつけてそこに独鈷杵出しただけや」

「くっ・・・・」


煌は迷企羅の言葉に、苦い表情を浮かべた。

侮っていた。相手の力量を・・・・・まさか己の手元を見ただけで攻撃の先を予測するなどとは。そう易々とできる芸当でもないだろうに。


「あ、あともう一個、わかったことがあるで」

「・・・・・なんだと?」

「長さが変わるんやろ?その剣―――」

「!!」


迷企羅の言葉に、煌は今度こそ大きく目を瞠った。


「いやぁ、これに気づくのが一番苦労したわ。俺や他の皆も剣の間合いを計ろうと色々やってたんけどな、予測してたよりも剣の長さがあったり、逆に無かったりして空ぶったりもしたからそれで気づいたんや。・・・・どうや、当たってるやろ?」


まぁ、わかったところで剣を防げるかどうかは微妙やったけどなー。上手く防ぐことができたわ。

へらりと笑う迷企羅。
が、そんな彼に冷たい言葉が飛んできた。


「迷企羅、格好つけ・・・・・・・」

「全くよね!そんなの一々自慢げに話さなくってもいいじゃない」

「ちょ!、こう見えても俺かなり必死だったんやで?!ちょっとでも外せば串刺しになってたんやから!!」


思いの他冷たい同胞の反応に、迷企羅はちょっぴり泣きたい気分になった。
が、そんな迷企羅の必死な訴えに返ってきた彼女らの言葉はというと―――


「大丈夫。迷企羅だから・・・・・・・」

「や、一体どこをどうして大丈夫なんや?!」

「だって、迷企羅なら死にそうにないじゃない?っていうか、生命力ごきぶり並にありそうだし」

「ごっ!!?」


ごきぶり並とはあんまりである。
迷企羅は同胞の言葉に、背中に影を背負っていじけた。

しかし、彼らのいつも通りといえばそうかもしれない遣り取りも、煌から零された低い哂い声が聞こえてくるまでであった。
迷企羅達は訝しげにそちらへと視線を向けた。丁度、俯けていた顔を煌が徐に上げたところであった。
顔を上げた煌は、うっそりと暗い笑みを口元に浮かべた。


「――・・・・剣の特性をわかったくらいでいい気にならないでね?」

「なん・・・・」


なんやと?と聞こうとした迷企羅の言葉は、しかし煌から発せられる威圧感にも似た空気によって途切らされた。
煌は口元の笑みの形を保ったまま、静かな声で言の葉を紡いだ。








「・・・・・・・・其は敵を排する蜂の如く




―――蜂鋭尖突の舞」








迷企羅はその言葉を耳にした瞬間、何も考える暇もなく体を横に動かした。




瞬間、迷企羅は己の腹に熱が奔ったことに気づく。












気を抜いてしまった己に、苦笑が零れた――――――――。














                        

※言い訳
くあぁぁっ!!また延びた!一話分の予定だったところが数話に増えちゃってるよ!話進まねぇー!!
――と、話を書きながら内心で叫んでました。なんか予定していた話の内容に色々加えていたら、また一話分増えましたよ;;次の一話で話を収めたいな〜というのは、最早希望的な言い回しになっています。・・・・・多分、次で予定の地点までいける・・・・はず。うん、新たに色々付け足さなければきっといけるさ。
あ〜、今日あたりもう一話くらい書きたいなぁとは思ってるんですけど、気力が持てばですね。
今回、ほんの少しだけ迷企羅に嫌な役を押し付けてしまいました;正論っていえばそうなんですが、それでも口にして言われたら嫌だなぁという言葉を言わせました。(ごめん、迷企羅!)
最近、迷企羅の言葉遣い(関西弁?)がこれで合っているのかとかなり悩んでいます。ここらへんちょっとおかしいんじゃない?と思われた方は是非ともご指摘ください。(切実)
あ、今回紅蓮と勾陳の存在が皆無でしたけど、次回は頑張って登場させたいな〜と思っています。

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2007/10/21