愕然とした表情。







凍りついた瞳。







その瞳に映し出されている笑みを浮かべた自分。







それでも、誰もが見ているのは自分≠ナはなかった―――――――。















沈滞の消光を呼び覚ませ拾肆〜
















むせ返るほどの鉄の匂いが辺り一帯に漂う。

目の前に広がる紅き水溜り。
そしてその水溜りに身を沈める少女。

その光景を晴明達は愕然とした面持ちで、ただひたすらに見つめていた。


「な・・・・んで、なんでなのよっ?!」


桔梗色の瞳を凍りつかせたまま、太陰は叫び声を上げた。
太陰のように声を上げずとも、その場にいた晴明や十二神将達も思いは同じであった。





何故、彰子は地面へと倒れ伏している?

何故、その体を血溜まりが取り囲んでいる?

何故、昌浩はそんな彰子の姿を見て嗤っている?




――――何故、昌浩は彰子を・・・・殺した?





何故、何故、何故っ!?

疑問の声は静まるどころか大きくなっていく一方で、ただひたすらに反芻されるだけであった。
そして、その問いかけに答えたのは、問われた本人である煌(こう)自身であった。


「何故?そんなこと決まってるでしょ?俺と昌浩。その違いを一番わかりやすい形で示しただけだ」


昌浩は彰子を傷つけたりしない。

昌浩は人の命をこうも容易く刈り取ったりなどしない。

ならば自分は?たった今、彼らの目の前で一人の少女の命を躊躇なく消し去った自分は、一体どこをどう見れば彼らの求める『昌浩』足りえるのだろうか?
答えは否。
他の命を――しかも己が大事とする者の命を容易く摘み取る昌浩など、最早昌浩ではない。
それをわかっているが故に、煌は今一度問うた。


「ねぇ、こんな俺でも・・・取り戻したい?」


言えるものなら言ってみろ。
言えるはずがない。
誰が取り返したいと思うのだろうか。
『人殺し』な自分を――――。

表情を凍りつかせている彼らを見、煌はただただ嗤い続けた。







                      *     *     *







しんしんと降りゆく白い欠片達。

無音の世界に、少年は一人佇んでいた。


「・・・・・・・・今更、なんだよね・・・・・・・・・」


ぽつりと零された呟き。
少年は瞬きもせず、白き欠片が舞い降りてくる天を真っ直ぐと見据える。


「もう過ぎてしまったことで・・・・・・・」


「でも、諦めたくないんだ・・・・・・・・」


彼の人達が、それでも尚手を伸ばしてくれることを―――――。







                        *     *     *







まるで、泣いているようだな・・・・・・。

紅蓮は目の前で嗤笑をその口元に浮かべている子どもを見て、そう思った。
現在子どもがその顔に浮かべている表情は、悲しみとは真逆の位置にあるであろう『笑み』。
しかしそれでも尚、紅蓮はその表情が泣き顔のような気がしてならなかった。

何故、彰子を殺したのか。
その紅蓮達の疑問に、煌は己と昌浩の違いが一番わかりやすいためだと答えた。

昌浩と煌。
同じものにして異なるもの。(『昌浩』という根幹を同じくするものにして、性格が全く異なるもの)
異なるものにして同じもの。(性格が全く異なるものにして、『昌浩』という根幹を同じくするもの)

昌浩と煌が『違う』ということは、記憶にある昌浩とこれまでに接してきた煌の人成りを思い返せばわかることである。
そのことは早く気づいた、遅く気づいた関係なく、今ならば誰もがわかっていることである。
だというのに、煌は尚も執拗に昌浩と自分の違いを強調する。
そこに一体どんな意図があるのだろう?

『煌』という名を呼べども、やはり以前の昌浩しか見ていないと、そうあの子どもは叫んだ。
紅蓮達の目の前で彰子を殺してみせ、もう後戻りができない状況を作り出してまでみせて――――。
と、そこまで考えた紅蓮は、ふと目を瞬かせた。
わずかな違和感を感じる。
何か大事なことを見落としているような、そんな違和感が・・・・。


「そうか、思い違いをしていたんだ・・・・・・・・」


ふいに零された呟き。
少しずつずれていたそれが、真っ直ぐ一直線に繋がっていく。


「・・・・・騰蛇?」


紅蓮の呟きを耳に拾った六合が、訝しげに問いかける。
しかし、紅蓮はそんな六合の様子に気がつくことなく、煌を真っ直ぐに見据えた後に破顔した。


「本当に・・・・・・・お前は馬鹿だなぁ、昌浩」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


あまりにも場にそぐわない言葉を聞いた気がして、煌は随分と間を空けてから疑問の声を上げた。
煌だけではない。
紅蓮本人を除くその場にいた全員が、あまりに脈絡なく紡がれた言葉に唖然とした。
そんな周りの反応など気にせず、紅蓮は呆然とした表情で己へと視線を向けている子どもへと言葉を続けた。


「愚問だ、愚問すぎる。この三年、お前が一体どんなことをしていたのか・・・それは知らない。だがな、そんな俺にもこれだけは明確に言えることがある」

「・・・・・・・何?」

「――――『昌浩』、お前に帰ってきてほしい・・・・・。たとえそれが『過去に人を殺したことがある』お前でもな」

「―――っ!?」


紅蓮の言葉に、その場にいる全員・・・特に煌が鋭く息を吸い込んだ。
その誰もが驚きに大きく目を瞠っている。


「どうか帰ってきてくれ、『昌浩』――――」


有りっ丈の思いを込めて、紅蓮がそう言葉を紡いだ時。






ぱりぃぃん!







その場に玻璃が割られたような、硬質的な破砕音が響き渡った―――――。
















                        

※言い訳
どうも、お久しぶりです・・・。前回の更新から早4ヶ月も経っているんですね・・・・。
ほんと、長々と更新もせずに申し訳ありませんでした!!
何とか、続きを書くことができました;;前回があまりにも悲惨なので、どうお話を繋げたら良いか困り果ててしまって・・・・・。まぁ、もともと書く予定だったシーンですけど、上手く文として表現できないのが口惜しいです。
心情描写が多すぎて、かなり読みにくい文だったのではないでしょうか?(え?いつものこと??)
紅蓮が導き出した答えの詳細については、次回書くことになりました。いえね、それまで書いちゃったら丁度良くお話が切れそうになかったもんですから・・・・・。
今回、紅蓮の土壇場ですけど、紅昌ではありません!昌浩総『愛』ですから!!!(←くどいっ!!)
まぁ、そんなわけですので、次回の更新も気長にお待ちください。

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2009/12/6