呪いの唄。 怨みに満ちた眼光。 自分に向かって伸びてくる黒い黒い手。 何とも言い難い喪失感。 それらの意味することは何―――――? 水鏡に響く鎮魂歌―弐― 「―――――っ!」 声にならない悲鳴を上げ、昌浩は勢い良く飛び起きる。 荒く、乱れた呼吸。 心臓がばくばくと早鐘を打っている。 嫌な夢を見た、と思う。そう分るが、それがどんな夢だったのか全く思い出すことが出来ない。 ひどく後味の悪い気分にさせられる。 昌浩は一つ大きく息を吐くと、汗で額に張り付いた前髪を掻き揚げる。 はっきり言って夢の内容を覚えていなくて良かった気がする。 それほどに思える位嫌な夢。 自分は一体どんな夢を見たのだろうか―――? 常より少し早めに起床してしまった昌浩はしばらくの間、何処を見ることなくぼ――っと放心していた。 「ふっあぁ〜っ!あ――、良く寝た。ん?珍しく早く起きてるな昌浩」 「・・・・・ん?あぁ、おはようもっくん」 漸く、共に眠っていた物の怪が眼を覚まし、いつも通りのあいさつをする。 物の怪は常と違いどこか上の空な反応を返す昌浩に人知れず眉を顰める。 「なんだ、なんだぁ?朝っぱらから寝ぼけてるのか、晴明の孫」 「孫言うな。・・・・・・うん、なんか頭に霞が掛かったようにぼ――っとするんだよね」 「―――?なんだ、夢見でも悪かったのか??」 「う〜ん・・・・・そうかもしれない。けど夢の内容は何も覚えてないんだよなぁ」 物の怪の意見に、昌浩は頭をぽりぽりと掻きながらそう答える。 そう、夢見が悪かったはずなのだが、肝心の夢の内容を覚えていないのならばどうしようもない。 物の怪はしばらく何か考えるように眼を眇め、しっぽをぴしりと揺らしていたが、自分の知る限り昌浩に何の以上も無かったことを確かめてその夢について深く追求することをやめた。 「ま、夢見が悪いだってあるさ。・・・それより、そろそろ彰子のやつがお前を起こしにくるんじゃないか?」 「え?もうそんな時間?」 折角早く起きた昌浩だが、放心していた時間が結構長かったのか、いつもとあまり変わりの無い時刻にまでなっていた。 そのことに気づいた昌浩は、慌てて出仕の支度を始めた。 ほどなくして彰子が朝餉の準備ができたと二人を呼びに来たのだった。 その頃には、二人は夢見が悪かったことなどすっかり忘れてしまっていた。 その夢がこれから始まる騒動の序章だと気づかずに―――――。 * * * 「―――これで漸く準備が整った・・・・・・」 暗闇の中、一人の男がそう呟き、光悦とした笑みを口元に浮かべる。 長かった。 あれから早十二年。 自分はこの時が来るのを焦燥に似た気持ちで待っていたのだ。 「漸く・・・・・・・漸くだ、瑞斗。お前を屠ってくれたあいつに、やっと復讐ができる・・・・・・」 男はそっと目を閉じて、この世にはもう居ないたった一人の弟に黙祷を捧げる。 「後は時機が来るのを待つだけ」 男は低く、低く呟く。 男の周りに暗闇より尚暗い闇が纏わりつく。 空気が啼く。 男の闇い(くらい)気を含んだ霊気が爆発する。 「覚悟しておれ、安倍晴明!そしてその一族達よっ!!!」 男の嗤笑が闇に木霊する。 さぁ、始めよう復讐という名の宴を。 安倍一族の悲鳴を肴にして。 そんな男の企みを見て哄笑をあげる闇。 愚かな男よ。 我はせいぜい楽しませて貰おう。 哀れな男の復讐劇を。 闇も男と共に嗤う。 ![]() ![]() ※言い訳 今回はいつもより少し短い文になってしまいました。 よ、ようやく読みやすい文章になった;; と言っても、遠まわしめいた文章表現でしか書いてないしね・・・・・・・多分、話を進めていくうちに段々とわかってくるとは思います。 それまではこの謎賭け染みた文章で我慢してください。頑張って書きます。 感想などお聞かせください→掲示板 2005/9/12 |