花と花弁。






二つに違ったそれらは今は別々に存在する。






しかし、花と花弁はもとは一つ。






二つに違えても尚それらは惹かれ合う。






それらがもとの一つに戻ることはあるのだろうか?―――――












               水鏡に響く鎮魂歌―伍―











夜気を含んだ風が頬を撫で、通り過ぎていく。
薄い紗がはらりと地面に落ちる。
覆うものが無くなって曝け出された顔は昌浩の顔に似ていた。
いや、似ているどころではない。最早昌浩そのものだと言ってもいいだろう。


「お、俺―――?」

「馬鹿なっ!!?」

「くっくっくっ!驚いた?」


自分の顔を見て固まっている昌浩と物の怪に、少年は悪戯が成功した子どものように無邪気に笑った。


「―――っ!貴様っ!!!」


衝撃から立ち直った物の怪は怒気も顕に目の前の少年を鋭い眼光で睨みつける。
そこら辺にいる小心者ならその眼光だけで息の根を止めてしまうだろう。
が、そんな眼光を向けられている張本人の少年は至って涼しい顔をしている。


「やだな〜、そんなに殺気立っちゃって!」

「ふざけるのも対外にしろよ?俺はあまり気は長くない、さっさと本当の姿を見せろ!!」

「見せろって言われて、はいそうですかってこっちが素直に姿を見せると思う?だったら神将って案外馬鹿だね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


馬鹿にしたような少年の科白を聞いて、物の怪は自分を取り巻く怒気をより一層強くする。
そんな物の怪の様子に少年は軽く肩を竦めて昌浩へと視線を移す。


「残念だけど、これ、一応俺の素顔だからね?」


にっと口の端を上げながら少年は自分の顔を指差す。


「素顔?」

「うん、そう。生まれた時からこの顔だから。やっぱ不快?」

「えっ・・・・「自分と同じ顔したやつが目の前にいきなり現れたら不快に決まってるだろうがっ!!」


不快?と少年に聞かれて口篭った昌浩を遮って物の怪が代わりに答える。
昌浩に視線を向けていた少年は不愉快そうに眉を顰めながら物の怪を見る。


「黙れ・・・縛っ!!!」

「なっ!」

「もっくんっ!!」


一言低く呟くと少年は物の怪に金縛りの術を放つ。
物の怪は意表を突かれて身動きの自由を奪われる。
昌浩はその様を見て驚きに眼を開く。
いくら不意を突いたとしてもあの物の怪の動きを封じるとは!?
物の怪の動きを封じた少年は物の怪をひたと見据える。
今まで楽しそうに輝いていた瞳が、絶対零度を纏ったひどく冷たい輝きを灯らせる。


「俺は今昌浩に聞いてるの。余計な口出しは無用だよ」

「っの野郎!」


物の怪がそう叫ぶと同時にパンッという術の破れる音がした。


「この俺に術をかけるとはいい度胸じゃねぇか・・・・・」

「ふぅ・・・・流石は十二神将、この程度の術ではあっさりと破られるか」

「当然だ。この程度の力で抑えられるとでも思ったか?」

「まさか!―――しばらく時間を稼げ、疾風」


少年の掛け声と共に物の怪の前に一匹の銀色の毛並みをした狼じみた獣が立ち塞がった。


「!式か」

「ご名答。神将には悪いけど、疾風の相手をして貰うよ?」

「この俺が式ごときに遅れをとるとでも?」

「ふっ、それはどうかな?いけっ!疾風!!」


少年の掛け声で疾風は物の怪に飛び掛っていった。
物の怪も応戦の体制に入る。


「さて、と。これでゆっくり話せるな」

「・・・・・一体何が目的だ?」


昌浩は油断無く身構える。
昌浩のその様子を見て、少年は軽く笑みを浮かべる。


「悪いけど、今回は俺の独断行動だから目的っていう目的は無い。しいて言えば顔合わせ、かな?」

「顔合わせ?」

「そう。だから今日は何もしないから安心してv」


そう言って少年はにっこりと笑う。
そんな少年を見て昌浩は頬を引き攣らせる。
自分そっくりな顔でにっこりと笑いかけられれば、そりゃあ違和感ありまくりだろう。


「その顔が素顔というのは本当?」

「まぁ、いきなり目の前に現れたやつが自分そっくりの顔してたら疑いたくもなるだろうけど、本当だよ。なんなら顔抓ってみる?」


小首を傾げながら少年はそんなことを聞いてくる。


「いや、そこまでして確かめなくても・・・・・・・・;;」

「そう?でもそんなこと言っていいの?仮にこの顔が偽りだとして、俺がこのままで悪さをすればどうなるかとか考えないの?」

「それって、素顔だろうが偽者だろうがあんまり関係ないと思うけど・・・・・・・」

「あっ、それもそうか」

「・・・・・・・・・・」


緊迫した状況で対峙している物の怪・疾風組と比べ、こちらは緊張とかけ離れた実にほのぼのとした空気が漂っている。
どこか抜けたような返事をする少年に、昌浩は眩暈を覚えた。
この少年が例の事件の首謀者とは俄かに信じ難い。
が、先程実際に現場を見ているので当人であることは間違いない。


「―――とまぁ、こんな間抜けな会話をしているわけだから、悪用とかそういったことは考えてないと思ってくれていいよ」

「はあ・・・・・;;」

なんというか、調子が崩れてしまうような相手だ。
呆れる昌浩の一瞬の隙を突いて、少年が間合いを一気に詰め目の前に立つ。
そのことに気づいて昌浩は慌てて距離を置こうとするが、少年に腕を掴まれて距離を置くにも置けないでいた。


「もぅ!今回は何もしないって言っただろう?そんな警戒しまくらないでよ」

「そんなこと言われても・・・・・・(困)」

「むぅ〜。ま、しょうがないか・・・・・じゃあ今日はこの辺にしとくよ。―――あっ!そうだ昌浩、ヒントを教えてあげる」

「えっ?」

一つの花とその花弁。それが俺達だよ


少年は昌浩の耳元で昌浩以外に聞こえない程度の声量で囁いた。
怪訝な顔をする昌浩に何か含んだような笑みを向け、少年は昌浩から離れつつ疾風に合図を送る。
合図と共に物の怪と対峙していた疾風は素早く少年の下に戻る。


「まっ!それは一体どういう・・・・・・」

「寛匡」

「え?」

「俺の名前。まだ名乗ってなかっただろう?こっちばっか名前を知ってるのも不公平だし」


そう言って少年―――寛匡は軽く肩を竦める。


「名など知ったところで!」

「名は一番短い呪。そうだろ?神将」

「―――何が言いたい?」

「別に、言ってみただけだ。それじゃあまたな昌浩、神将」


そう言うと寛匡はその場から姿を消した。






                     *    *    *






漆黒の空間。

その場所に男と少年はいた。


「ただいま戻りました」


片膝をつき、少年・寛匡は男にそう言った。


「ご苦労。・・・・・と言いたいところだが、どういうつもりだ?指示以外の行動をとるとは」

「申し訳ありません。あまりにも安倍の方に動きがなかったために・・・・」


と、そこまで寛匡が話したところで

ドゴォァァァァッ!!!

凄まじい轟音が寛匡の残りの言葉を遮る。
寛匡の真横の地面は大きく亀裂が入っていた。


「爛覇怒った?」

「否・・・・たがあまり差し出がましいことをするな。わかったな?」

「御意」


男の言葉に寛匡は頭を垂れた。
男はそんな寛匡を見て嗤った。








首を洗って待っていろよ安倍晴明。








鎖はすでに用意してある。






後は機会を窺うのみ。






復讐者は闇の底で嗤笑する。
















                       

※言い訳
今回は以前予告したように昌浩とオリキャラ・寛匡のやり取りを書きました。
どうでしたか?
え?もっくんがあまり出てこない?
すみません。今回は昌浩と寛匡のやり取りがメインだったので・・・・そこのところは堪忍してください;;
今回の話には隠しページを付ける予定です。いつリンク貼るかは未定です。
でも近いうちなのは確かですので気長にお待ちください。

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2005/11/3